2020 Fiscal Year Research-status Report
The Research of the Right to be no discrimination
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18K01253
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
木村 草太 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (50361457)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法 / 平等権 / 差別されない権利 / 夫婦別姓 / 同性婚 / 家族法と憲法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究実績は、大きく分けて4つある。第一に、アメリカのローレビュー論文や、日本国内の差別に関する研究書などを基に、差別の概念に関する研究を進めた。この研究の結果、差別という問題は単一の規範でとらえられる問題ではなく、①偏見(人間の類型に向けられた誤った事実認識)に基づく行動の禁止、②人間の類型情報の無断利用の禁止、③主体性否定判断の禁止、そして、④差別感情・評価に基づく行動の禁止が必要であることが分かった。この点は、2021年度以降、論文にまとめ発表されて行く予定である。 第二に、憲法訴訟の現場では、差別されない権利は家族法の分野で大きな問題となっている。今年度は、第二次夫婦別姓訴訟、同性婚訴訟の研究を進め、また、離婚後共同親権の問題についても研究を進めた。これらの事例では、平等権・差別されない権利が問題となる。選択的夫婦別姓訴訟については、同氏合意による区別・不平等の有無が問題となっており、ありとする形で結論を得た。これをまとめた論文は2021年度中に公表される。同性婚訴訟については、一年研究を進め、2021年3月に重要な判決が出た。判決を分析する準備は2020年度中の研究で整っている。離婚後共同親権については、引き続き研究を進め、改めて、父母の協力関係があれば現行法で問題なく、協力関係がなければ適時の親権行使に関する合意ができないため不適当で、現行法に憲法上重要な問題はないとの結論が確認された。 第三に、コロナ禍の下、補助金や休業要請に関する平等権の在り方も研究し、幾つかの論稿にまとめた。 第四に、11月に起きた日本学術会議の問題については、思想・信条による差別の観点から研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を進める中で、二つの方向で研究を進めるべきことが分かってきた。まず第一に、差別や差別されない権利についてはいまだ十分に概念が定まっておらず、アメリカ法でも、差別の概念に混乱が見られる。例えば、差別の語はそれ自体不合理で不正義なものというニュアンスを持つはずだが、アメリカ法では混乱し、「悪しき差別」と「そうでない差別」という用語すら生まれてきている。そこで、差別の概念を今一度丁寧に整理し、それを禁じるための規範をどう定義すればよいかも含めて、理論的・抽象的検討を行うことが重要である。本年度は、この点について論文を執筆する準備を行い、年度末から実際にそれに着手した。研究成果は2021年度中に発表することができそうで、そこまで見通しを得たので、研究計画はおおむね順調に進展したと言えよう。 第二に、差別・不平等の問題は、理論研究だけでなく、具体的な問題を丁寧に検討する必要がある。例えば、同性婚問題一つとっても、ここには国家による差別、憲法24条の起草過程、条文の分離解釈、憲法13条の解釈方法、憲法14条1項の適用方法、実際の当事者たちの状況など、検討すべき課題は多い。本年度は、取り扱う具体的問題について、様々な視点から検討を進め、立体的な議論を組み立てることができた。論文等をまとめる準備もできたため、こちらの具体的問題の検討についても「おおむね順調に進展している」と評価することができる。 なお、当初予期していない問題として、選択的夫婦別姓問題についてはそもそも民法750条について十分な解釈がなされていないことが判明し、これに関する裁判例を丁寧に検証する必要が生まれ、その準備作業も行った。予期せぬ問題に対し柔軟な対応もできたので、やはりこの点もおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性は、ここまでの進捗状況について書いたように、二つの方向性がある。第一に、差別概念・差別されない権利のありようについて、理論研究を進める必要がある。この点については、連載の形で論文を発表して行く他、様々な形でアイデアをまとめてゆきたい。すでに画期的な議論の整理が発見されたので、それを深めて行くことが重要と思われる。 第二に、具体的問題については、今年度は、特に同性婚訴訟の研究に注力したい。この訴訟は、2021年3月の札幌判決以降、それをきっかけに判決の評論など重要な論文が出されることが期待され、そうした論文の示唆を踏まえ、この研究課題における研究も深まってゆくと思われる。 このように、抽象的な概念研究と、具体的問題に関する丁寧な検討をすすめるのが、今後の研究推進方策であり、この方策は年度の直前の段階ですでにかなり進められてきている。また、研究を遂行する上では、多くの当事者や研究者とコミュニケーションをとる必要があるが、コロナ禍の中で、オンラインの手法をとって全国の方々とコミュニケーションをとることにしたい。そのためには、WEB会議システムの充実が必要で、そのための準備も行っている。適切・効率的な運用につとめたい。
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Research Products
(2 results)