2021 Fiscal Year Research-status Report
現代刑事事実認定における経験則の実際的機能と理論的意義についての総合的研究
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18K01317
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
豊崎 七絵 九州大学, 法学研究院, 教授 (50282091)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 刑事訴訟法 / 経験則 / 事実認定 / 証拠評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績の概要は次の通りである。 近年、経験則が罪責認定方向での証拠評価ないし事実認定を左右するほど、大きな役割を果たしている事例がみられる。だが経験則は本来証明の対象ではないとされてきたこととも相俟って、証拠の脆弱さを潜脱するための道具とされる場合があるのではないか。 このような問題意識に基づき、第1に経験則が証明の対象とされるべき場合があるのではないか、また第2に特に犯人の言動に関する経験則の適用は証拠評価ないし事実認定を誤らせる危険があるのではないか、という点について考察を行った。 第1点目について。なるほど、その適用がとりたてて意識されることすらない、抽象的・一般的な経験則であれば、証明の対象とするまでもない。だが、経験則が当該事案の証拠評価ないし事実認定を左右するならば、厳格な証明の対象とすべきであり、その上で、特別の知識経験に関する場合には鑑定も要する。なぜなら、経験則が証拠評価ないし事実認定において実質的な役割を果たしうるほど具体的な内容を持つ場合、仮に法則性があるとしても、一定の条件下でのみ適用しうることが想定されるので、その条件を明確化するため、経験則の淵源とされた諸経験とはどのようなものであったか、証明が必要となるからである。 第2点目について。「犯人は犯罪を成し遂げるのに合理的な言動をなす」、「人はウソをついてまで不利益な事実を暴露しない。それゆえ、あえて自分に不利益な事実を供述するのは真実(有罪意識の徴憑)である」といった経験則は、犯人の言動に関する経験則として、罪責認定方向での証拠評価ないし事実認定で決定的な役割を担うことがある。しかし、これらの経験則はそれ自体証明されていないばかりか、このような経験則に依存する証拠評価ないし事実認定の手法は、裏を返せば、多角的な証拠による総合評価が不可能であるという意味で、証拠の脆弱さを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の成果を論文として公刊することができた。次の論文の公刊も準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き事例研究を精力的に行い、経験則のあてはめを分析することによって、経験則の実態を明らかにする。また経験則を取り扱う裁判官経験者、弁護人、鑑定に携わる学識経験者のインタビュー調査を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、計画していた出張ならびにインタビュー調査について実施できないものがあり、次年度使用額が生じることとなった。 次年度は、出張を実施するとともに、状況に応じてウェブ会議システムを使ったインタビュー調査なども計画している。
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Research Products
(1 results)