2018 Fiscal Year Research-status Report
インターネットにおける人格的利益の侵害に対する差止請求権の基礎的研究
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18K01328
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
根本 尚徳 北海道大学, 法学研究科, 教授 (30386528)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 差止請求権 / 人格権 / 物権的請求権 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究年度の第1年目に当たる2018年度においては,まず,本研究課題に関連する日本,ドイツおよびヨーロッパの文献資料(判例・学術論文)の収集とその整理とに力を注いだ。とりわけ,ドイツでは,近時,本研究課題にとって重要な法律(Telemediengesetz)の改正が相次いで行われ,さらにこれらに関する重要な判例・裁判例が次々と現れた。また,それらの動きに刺激をされて学術論文も続々と公表されるなど,今まで以上に活発な議論が交わされている。そのような最新の議論状況をできる限り早く,かつ正確に把握することに努めた。 次に,主として,インターネット上で人格的利益が違法に侵害される事案の特徴を明らかにし,これに対するあるべき対応策を追及するための比較対象として,インターネット上における違法な著作権侵害に関する事案を取り上げることとし,後者に関する従来のドイツおよび日本における判例・学説による議論の整理を開始した。 さらに,本研究課題の一部を成す民法上の差止請求権の一般法理に関する考察については,差止請求権の一種である物権的請求権に関して,1つの物権の侵害に複数の主体(侵害者)が関与している場合における各侵害者に対する物権的請求権の発生要件・効果の具体的内容,そして個々の物権的請求権の相互関係のありようを解明することができた(その成果は,拙稿「物権的請求権」松岡久和編『新注釈民法(4)物権総論』〔有斐閣,2019年公刊予定〕として公表される)。その結果,このような物権的請求権に関する一般法理を足がかりとしつつ,複数の侵害主体によってインターネット上で私人の人格的利益が違法に侵害される場合における差止請求権の発生要件や効果などについて体系的な分析を進めることが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に,本研究課題にとっては,インターネット上における違法な法益侵害に関して,インターネット・サービスプロバイダーの妨害除去義務を原則として否定することとしたドイツのTelemediengesetz 8条1項2文の意義について検討することが重要であるところ,2018年度は,まさしくこの点に関する最新の重要判例と学説とをそれぞれ集中的に分析した。その結果,現時点におけるドイツの議論状況について正確な理解を得ることができた。 第2に,2018年度における研究活動のさらなる成果として,前述のとおり,差止請求権の一種である物権的請求権に関して,1つの物権の侵害に複数の主体(侵害者)が関与している場合における各侵害者に対する物権的請求権の発生要件・効果の具体的内容,そして個々の物権的請求権の相互関係のありようについて自らの見解を固めることができた。これは,2019年度以降において行われるべき,インターネット上にて複数の主体の関与の下に私人の人格的利益が違法に侵害される場合における差止請求権の発生要件や効果,各請求権の相互関係などに関する理論的分析に際して,その基盤となるものである。 第3に,インターネット上における違法な人格的利益の侵害との比較対象として検討されるべき,インターネット上における違法な著作権侵害に関しても,すでにドイツ・ヨーロッパおよび日本におけるそれぞれの判例・学説の分析に着手し,かつそれらを順調に前に進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究年度の第2年目に当たる2019年度においては,第1に,これまでに積み上げてきた研究成果の正確性・充実度を検証するために,本研究課題に関するドイツ人研究者との意見交換に力を入れる。具体的には,2019年9月にドイツに渡航し,彼の地の複数の研究者と直接に面会して,第1年目の研究成果を提示した上で,それに対する意見を求めるとともに,日本で研究活動を進めている過程で生じた疑問についても質問し,その解消に努める。さらに,現段階における暫定的な私見の当否についても率直な批判を受けて,そのさらなる発展を期する予定である(時間が許すならば,今年度は,2020年2月あるいは3月にも短期間,ヨーロッパの研究機関を訪れ,同じような意見交換を実施したい)。 第2に,引き続き,本研究課題に関連する日本,ドイツ,ヨーロッパの文献資料(判例・学術論文)の収集と整理・解析に精力的に取り組む。近年,ドイツにおいては,2016年,2017年と立て続けに行われたTelemediengesetzの改正を踏まえて,ドイツ連邦通常裁判所や下級審裁判所の判例・裁判例や学術論文が陸続と現われている状況にある。この動向が今年度も続くであろうことは疑いを入れない。さらに,ヨーロッパ議会・ヨーロッパ司法裁判所による法形成からも目を離すことができない。 第3に,インターネット上における個人情報の削除に関するいわゆる「忘れられる権利」をめぐるドイツ・ヨーロッパおよび日本における議論についても分析を開始する。 第4に,インターネット上での違法な著作権侵害に関する我が国の従来の議論の把握と分析とに,2018年度以上の時間と労力とを傾注する。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では,2018年度に一度,ドイツの研究機関を訪問し,10日間ほどそこに滞在しながら,本研究課題に関連する文献資料の収集および彼の地の研究者との意見交換を実施する予定であった。しかし,日程の調整がつかなかったことなどから,2018年度におけるドイツへの訪問を見送ることとした。そのため,次年度使用額が生じた次第である。 そこで,2019年度には,もともと行う予定であったドイツへの訪問の期間を所期の予定であった2週間から3週間程度に延長するとともに,合わせて訪問先の研究機関をも複数とするなどして,2018年度に行う予定であった分の訪問およびその際に実施するはずであった上記文献資料の収集・意見交換を補う予定である。 また,もし時間が許すようであれば,上記ドイツへの訪問に加えて,さらに,別の時期にヨーロッパの研究機関(具体的には,オランダとフランスとの各研究機関を検討している)を訪問し,同様の文献資料の収集や意見交換などを行いたい。
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Research Products
(18 results)