2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K01527
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
橋本 努 北海道大学, 経済学研究院, 教授 (40281779)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ウェルビイング / 自由主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、福祉政策を支える「ウェルビイング」概念の新たな理念化とその指標化を試みることにある。この目的に照らして、2019年度は、この概念の新しい理解と射程に関する研究成果をいくつか発表した。理論構築という点では、昨年度から連載をはじめた、「幸福の経済原理---自生的な善き生(ウェルビイング)」の理論の最終回(第三回)を『思想』2019年6月号に発表した。自生的な善き生の理論は、リベラルであることの再規定(リベラル概念の再定位)を企てる規範理論である。あわせてこの論文の内容を、スイスのルツェルンで開催されたIVR(国際法哲学・社会哲学会)、および、経済社会学会の全国大会(熊本大学)にて、学会報告した。さらに、この観点からの応用として、『法の理論』の37号に、論文「リスク認識とイデオロギー 新たな理論と調査結果の分析」を発表した。これはカハン理論の刷新版をベースに、1200人規模のウェブでのアンケート調査に基づく分析である。理論構築の面では、加えて、雑誌Review of Economic Philosophyに、査読付き論文A Theory of Real Freedomを発表した。この他、単著『解読ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』』講談社メチエを公刊した。これは孫世代のウェルビイングという観点から、「資本主義の精神」概念を新たに解釈するものであり、本研究はウェーバーの古典的著作の理解に新たな貢献を加えた。雑誌Economic and Social Changes: Facts, Trends, Forecastには、査読付き論文を掲載。これは先のウェブ調査に基づく「新しいリベラル」の析出に関する理論と実証を含んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の中核的な課題は、「ウェルビイングの概念が、原理的・政策的な次元においてどのような規範的含意をもつのか」であった。この問題については、『思想』に連載した論文の完結によって、応じることができたと考える。本研究は当初、「自生的な善き生」の理論に基づく「ウェルビイング」論の体系的構築は、GDPを超える諸指標に一定の批判と評価を与えうるものでなければならない、と想定した。そしてこの課題に応じるために、同研究分野における以下の諸問題に解決を与えることを課題とした。(i)倫理学者フェルドマンとケインズの伝記作家スキデルスキーのあいだで論争される「善き生」の解釈(態度的快楽の単純集計vs物語的生)、(ii)イースタリンの法則とそれに対する異議(追加所得が幸福をマイナスにする閾値の証明不可能性、先進諸国の平均幸福度の優位性)、(iii)先進諸国においてみられる高齢者の幸福化傾向、(iv)幸福者の所得低下傾向というパラドックス、などである。これらの問題については、前掲の諸論文において、一定の成果を得ることができた。 さらにこの研究の派生的なテーマとして、「リスク」に関する問題や「新しいリベラル」に関する意識、あるいは「資本主義の精神」に関する解釈の問題についても、ウェルビイングの観点から新たな光を当てることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、課題に掲げた三つの目的、すなわち、(a)学説史的検討と概念分析、(b)福祉政策を体系的に導く規範理論の構築、(c)諸指標の検討と新たな指標の提案、に沿って、それぞれのテーマをさらに探求していく。とりわけ、「幸福度指標」とその背後に想定しうる福祉国家の新たな原理論が、これまでの福祉国家の諸原理(正当化根拠)とどのように違うのか、あるいはどの点で新しいのか、についても明らかにし、福祉国家が今後取り組むべき新たな政策課題について明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
昨年度はコロナウイルスの影響で、予定していた出張などのキャンセルを余儀なくされたため。今年度に繰り越したが、今年度もコロナウイルスの影響で計画通り使用できない可能性がある。使用計画そのものは、昨年度と変わらない。
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