2021 Fiscal Year Research-status Report
Quantitative analysis on network structures and functions of regionally rooted knowledge space
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18K01597
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
河上 哲 近畿大学, 経済学部, 教授 (60402674)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 知識空間 / Product space / 経済複雑性 / ネットワーク分析 / 産業クラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の基幹産業であり特徴的な集積形態が見られる自動車産業を対象に実施した実証分析について、これまでに得られたいくつかの研究成果を論文にとりまとめた。第一に、自動車部品の生産に要する知識の洗練性(いかに多様でかつ稀少な知識を要するのか)を、複雑性指標として定量的に計測する手法を紹介し、自動車部品サプライヤが生産する部品構成に関する実データを用いて分析した研究である。 第二に、各自動車部品をネットワークのノードとし、技術的に類似する部品間をリンクで結ぶ製品空間(Product space)を構築し、洗練性の大きい部品が新しく市場に出現する確率(=イノベーションの発生確率)が、いかに製品空間の位相構造によって規定されるかを計量経済学的に分析した研究である。 第三に、自動車部品サプライヤが有する知識洗練性と、産業集積との関連について地理的な空間分析を行った研究である。そこでは各サプライヤが生産する部品構成を整理したデータベースに、それぞれの部品が生産される工場の住所情報を接続することにより、部品生産に要する知識洗練性と、当該部品が生産される工場立地点や集積との関連について空間分析が可能となった。探索的な空間データ分析を行った結果、知識洗練性の大きい部品を生産する工場が、ランダムに分散することなく比較的狭い範囲に集積して立地するホットスポットが統計的に検出された。知識洗練性の大きいイノベーティブな活動について、集積に伴う知識スピルオーバーの重要性を示唆する結果である。 上記の研究成果を踏まえ、イノベーションの創発に寄与する産業クラスター内部の構造を解明するためには、スピルオーバーする知識の洗練性と地理的な空間範囲とともに、製品空間上をたどる知識スピルオーバーの経路を考慮する必要があることが、今後の研究課題として確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の最終目的は、知識や技術の洗練性が大きい財の創発(≒イノベーション)に寄与する、地域に根差した知識基盤の構造を解明することである。実証分析には、①財や生産主体の知識洗練性、②知識スピルオーバーの技術的経路、③知識スピルオーバーの地理的範囲をそれぞれ定量的に捉える必要がある。特徴的な集積形態が見られる自動車産業を実証分析の対象とし、イノベーション創発の技術的な経路依存性(上記①と②との関連)、及びイノベーティブな活動の地理的な集積範囲(上記①と③との関連)に関する研究成果について論文にとりまとめた。 最終的な研究目的の解明に向けて、上記①~③の観点を同時に考慮する分析枠組みは検討済みであるものの、実証分析に利用する一部情報の整備(自動車部品の生産拠点を時系列で特定する作業)に、当初想定した以上の時間を要している。また現時点で利用可能なデータをもとに実証分析を進めているものの、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、国際共同研究者が所属する研究機関(オランダ・ユトレヒト大学)を訪問して密な議論のもとに研究を進めることが困難な状況となった。共同研究者より分析結果やその解釈についてフィードバックを得られる機会が減少したこともあり、当初計画より実証分析や分析結果をとりまとめる作業に遅延をきたしている。
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Strategy for Future Research Activity |
国際共同研究の進捗に遅れが生じたため、本研究課題の研究期間の延長を申請し、申請時に当初計画していた範囲の分析と論文作成に取り組む。 まずは、前年度までに論文にとりまとめた①イノベーション創発の技術的な経路依存性、及び②イノベーティブな活動の地理的な集積範囲に関する実証分析の研究成果について、国内外の査読付き学術誌に投稿する。 また、実証分析に利用する一部未整備の情報(自動車部品の生産拠点に関する時系列の情報)をデータベースに追加したうえで、①財や生産主体の知識洗練性、②知識スピルオーバーの技術的経路、③知識スピルオーバーの地理的範囲の3つの観点を同時に考慮する実証分析を実施する。実証分析の方法や結果の解釈については、国際共同研究者が属する研究機関(オランダ・ユトレヒト大学)を訪問して意見公開を行い、イノベーションの創発に寄与する生産環境としての産業クラスターについて、国際間比較も行いながら議論を深めて政策示唆を導く。最後に本研究の意義と分析結果を論文にとりまとめる。
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Causes of Carryover |
本研究は、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)(研究課題名:ネットワーク構造を考慮した産業クラスター政策の定量的評価手法の構築と応用、補助事業期間:2018年度~2021年度、課題番号:17KK0077)で実施する研究課題と、多くの部分で研究内容を共有しており、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)より交付を受けた助成金を優先的に使用した結果、基盤研究で受けた助成金の未使用が生じた。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、国際学会への現地参加や、国際共同研究者が所属する研究機関(オランダ・ユトレヒト大学)を訪問することができない状況になったため、当初計画していた海外旅費・滞在費への支出がなくなった。感染症が収束した後には、ユトレヒト大学を訪問して共同研究を実施することを計画しており、それにかかる旅費・滞在費が見込まれている。
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Research Products
(4 results)