2019 Fiscal Year Research-status Report
国際貿易が垂直的連関市場における企業集積に与える効果とその政策的含意
Project/Area Number |
18K01601
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
須賀 宣仁 北海道大学, 経済学研究院, 准教授 (70431377)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 垂直分業 / 中間財貿易 / 輸送費用 / オフショアリング / リショアリング |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、中間財貿易費用(以下、貿易費用)が産業立地と経済厚生に与える効果を南北貿易の文脈において考察した。当該年度の主な研究成果はKurata et al. (2020)*として公刊されている。同論文では、複数の最終財と各最終財に特殊的な中間財の存在を仮定して分析を行っている。この分析により、産業立地に関して次の二つの結果が得られた。(1)貿易費用が一定の水準を下回ると、広範囲の産業においてオフショアリングと呼ばれる南北間の垂直分業が発生し、(2)貿易費用の低下がさらに続くと、相対生産性の高い部門から順に中間財生産の先進国回帰、すなわち、リショアリングが生じる。経済厚生に関しては、貿易費用の低下と産業立地の変化による各国への影響は必ずしも単調ではなく、南北間で対照的になる可能性がある。途上国の経済厚生は、オフショアリングにより大きく上昇し、その後、中間財生産のリショアリングとともに低下する可能性があるが、垂直分業の前より低下することはない。一方、先進国の経済厚生は、オフショアリングとともに大きく低下するが、その後、リショアリングとともに改善し、最終的に垂直分業の前よりも高くなる可能性がある。以上の分析では寡占市場は想定されていないが、寡占市場型の上流部門を想定した場合にも同様の産業立地の変化が生じると考えられるため、上記の分析は本研究課題の予備的分析の一つに位置づけられる。 *Kurata, H., Nomura, R., & Suga, N. (2020). Vertical Specialization in North-South trade: Industrial relocation, wage and welfare. Review of International Economics, 28 (1), 119-137.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に引き続き、企業集積の最適性に関する分析という本来の研究目標に到達していないという意味で進捗に遅れが生じている。具体的な進捗状況としては、初年度の分析が上流・下流の区別のない単一の生産部門を考察対象としていたのに対して、令和元年度の分析は上流・下流間の垂直的市場連関を扱っており、本研究課題が想定する基本的産業構造を反映したものになっている。さらに、貿易費用低下による中間財貿易の漸次的自由化の効果を分析しており、初年度に比べると、当初の研究計画に記された内容に合致した分析に取り組んだと言える。しかし、寡占市場型の上流部門が想定されておらず、また、冒頭で述べたように、本研究課題の主眼である企業集積の最適性に関する分析には至っていない。このような遅れが生じた理由の一つとして、研究実績の概要で述べた当該年度の主要な研究成果の刊行とその関連作業に多くのエフォートを費やしたことがある。また、未発表であるが上記とは別に、より伝統的な貿易理論(収穫一定・完全競争)の枠組みにおいて、中間財貿易費用が生産の上流・下流ステージの国境を跨いだ立地パターンや賃金、経済厚生などに与える純粋な効果の解明にエフォートを投じたことも、(本研究課題の本来の目的に照らして)研究の進捗に遅れが生じた理由の一つである。以上のように、初年度に比べて分析内容に一定の進展が見られ、学術的に興味深い結果も得られているものの、本研究課題の本来の目的に照らせば予備的分析に位置する作業にエフォートを集中させたことが、進捗状況に遅れが生じた理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
大枠において当該研究課題の研究計画の内容に変更はなく、初年度と令和元年度にやり残した課題を最終年度以降に繰り越して研究を継続する予定である。ただし、現在の進捗状況に合わせて一部トピックを削除したり、分析内容を多少変更したりするなどして、当該研究課題の研究期間内におおよその目標が達成されるよう研究計画にいくらか調整を加える。具体的には、前年度の研究実施状況報告書でも述べたように、非貿易中間財のもとでの企業集積については、当初、小国型多数国モデルと二国モデルによる分析を並行して行う予定であったが、二国モデルにおける分析のみを行う。さらに、初年度と令和元年度の研究成果を踏まえながら、当初の研究計画にはなかった新たな視点(比較劣位輸出産業やリショアリングの含意など)も取り入れ、企業集積の最適性に関する分析を実施することにより、研究期間内において当該研究課題の主たる研究目標を達成することを目指す。
|
Research Products
(1 results)