2018 Fiscal Year Research-status Report
Historical Study on the Transnational Connection and Networking of Women Academics
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18K02323
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Research Institution | Nishikyushu University |
Principal Investigator |
香川 せつ子 西九州大学, 子ども学部, 教授 (00185711)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 啓子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70406346)
中込 さやか 立教大学, グローバル・リベラルアーツ・プログラム運営センター, 特任准教授 (00778201)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トランスナショナル / 留学 / 女子高等教育 / ネットワーク / 成瀬仁蔵 / 河井道 / 大江スミ / 黒田チカ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は明治期から大正期までの日本の女子留学生によるトランスナショナルな活動に焦点を絞り、それを支えた人的ネットワークの実態を解明した。具体的には、官費でイギリスに留学した大江スミ、黒田チカ、私費でアメリカに留学した成瀬仁蔵、河井道、上代タノ等の事例を取り上げてその生涯と教育経験、教育者としての実践を考察し、その成果を二つの国際学会で報告した。 まず'Educaiton and Nature'を大会テーマとして8月にベルリン大学で開催された国際教育史学会(International Standing Conferece of the History of Education)では、研究代表者、研究分担者、研究協力者4名によるパネル'Western Impact on Women's Higher Education in Japan'を設けて、戦前期の東京女子高等師範学校と日本女子大学校の教育内容や教育方針における英米からの影響を検討した。具体的な事例として、成瀬仁蔵の身体教育、大江スミや河井道による園芸・農業教育、黒田チカによる自然科学研究を取り上げ、これらの人物の欧米留学とそれを支援した大学人のネットワークを分析し、留学経験が帰国後の教育実践に与えた影響について検討した。 また11月にアイルランドのリムリックで開催されたイギリス教育史学会(History of Education Society 51th Conference)においては、上記全員が個別研究報告を行なった。研究代表者の香川は日本の初期女性科学者の教育研究と留学経験およびキャリア形成について、分担者の佐々木は日本における初期の女性医師と教育について、中込は大江スミの英国留学と家庭科教育実践について、研究協力者の内山は上代タノと国際平和運動について研究の成果を発表し、海外の研究者からの批判を仰いだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は戦前期の女子留学生に焦点をあてることにより、女子高等教育をめぐるトランスナショナルな交流と大学人のネットワークについて考察した。戦前期の留学生のうち圧倒的多数を占めた男性留学生の動向を分析した先行研究はかなり存在するが、女性の留学の実態を包括的に検討した研究は少なく、津田梅子や安井てつ等の著名人とその周辺人物に限定されている。今日ではあまり知られていない人物も含めて、留学に至った動機や背景、帰国後の活動を追跡することにより、ジェンダーによる留学の目的や経験の相違が明らかになると考えた。 こうした展望のもと、東京女子高等師範学校からイギリスに官費留学した大江スミと黒田チカ、日本女子大学校や津田英学塾で教鞭を執りアメリカに留学した河井道と上代タノのライフストーリーを追跡し、その家庭環境、教育経験、留学に至るまでの経緯、留学前後の社会的ネットワーク、帰国後の活動を明らかにした。その成果を国際教育史学会では共同のパネルを組むことで、またイギリス教育史学会では個別の研究発表を行って海外に発信した。その結果、国内外の研究者からの質問やコメントを受けるとともに、研究交流の機会を得た。二つの国際学会での報告と交流から多くの示唆を与えられ、次年度以降の調査研究にむけての課題を具体化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、より多くの女性の留学生の事例を検討し、留学の時期や専攻分野別に分類・整理することにより、戦前期女性留学の全体像と特徴を明らかにしたい。こうした作業を通して、ジェンダー、国家政策、宗教、階層、地域等による留学の教育史的意義の差異が明らかにできると考える。 しかし、19世紀末から20世紀にかけて活発化した女子高等教育関係者のトランスナショナルな交流は、留学生の交換だけにとどまらない。20世紀初頭には国際的な女性参政権運動や平和運動の隆盛を背景に、国際女性大学連盟(International Federation of University Women)に代表される女性大学人の国境を超えた連帯や協働活動が展開された。次年度以降は、女性の大学人による協同活動の全容を明らかにするために、イギリスやアメリカ合衆国での調査を実施する。その成果を国内・国外の学会で発表するとともに、学術論文としてまとめ、学会誌に投稿したい。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、研究代表者(1名)、研究分担者(2名)、研究協力者(1名)の全員が、国際教育史学会(8月にドイツで開催)、イギリス教育史学会(11月にアイルランドで開催)の二つの学会で研究発表を行った。これに伴って海外出張旅費が年度初めの計画よりも多く必要となったため、平成31年度分として請求していた助成金の一部を前倒し請求して旅費の支出に備えた。ところが、11月のアイルランドでの学会参加については、開催地との往復に必要な航空券の価格が当初想定したよりも安価ですんだため未使用額が生じた。また購入を予定していた洋書の刊行が予定より遅れたため、年度内に購入できなかった。 その結果生じた未使用額については平成31年度の助成金と合わせて、図書等の物品の購入および調査や学会参加のための出張旅費として有効に使用したい。
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Research Products
(10 results)