2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K02485
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
池谷 和子 長崎大学, 教育学部, 准教授 (50622693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 文美恵 宮崎大学, 地域資源創成学部, 准教授 (50433058)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 子どもの貧困 / 定義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、まず「子どもの貧困」の定義について、日本における「子どもの貧困」対策におけるもの、諸外国における「子どもの貧困」対策や統計におけるもの等、資料や議事録を再検討し、3名の共同研究者において、「公法的」「私法的」「少年司法的」観点からの分析を行った。そこで分かった事は、日本も諸外国においても、そのほとんどが「子どもの貧困」を経済協力機構(OECD)の基準に準拠しており、「人がある社会の中で生活する際に、その社会の殆どの人々が享受している「普通」の習慣や行為を金銭的理由で行うことが出来ないこと」という大人の相対的貧困を、そのまま子どもの貧困にも流用して定義づけているということである。それゆえ、貧困の測定においても大人と同様に、世帯全員の合算した可処分所得(勤労収入、年金、生活保護等の収入から、税金、社会保険料等を引いた額)を世帯人数で調整し、その中央値の半分の金額を貧困線と定義し、その貧困線以下の所得しかない世帯にいる子ども達を「子どもの貧困」と捉えていた。 しかしながら、「子どもの貧困」を「大人の貧困」と全く同じと捉え、定義や測定法もそのまま流用して良いのであろうか?その疑問を土台として、実際に子どもの貧困に多く関わっている江戸川区(2月に訪問)や松山市(3月に訪問)の様々な行政機関や民間のグループをフィールドワークして、現場の人々との意見交換を行った。 その結果、①単に世帯の収入のみに着目するのではなく、「子どもの成長の為にどれだけお金が使われているのか」がカウントできる定義にすること、②「子どもの成長」とは決してお金の問題だけではないことに配慮すること、という「大人の貧困」とは明らかに違う2つの性質を洗い出すことが出来た。これを基に、「大人の貧困」とは異なる「子どもの貧困」を定義づけることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、日本や諸外国における文献調査、そして江戸川区(2月に訪問)と松山市(3月に訪問)において「子どもの貧困」に関わる様々な行政機関(子育て支援課、福祉課、児童相談所、社会福祉協議会等)や民間(無料塾、子ども食堂、ユニセフ協会等)を訪問することで、現在における「子どもの貧困」対策を調査し、さらに「子どもの貧困」に関する意見交換を行う事が出来た。その結果として、日本においても諸外国においても現在、普通に行われてはいるが、「大人の貧困」の定義を「子どもの貧困」の定義へと流用する現在のやり方は大変問題があることが明らかとなった。 その上で、「子どもの貧困」が「大人の貧困」とは違う側面について、検討の結果、①単に世帯の収入のみに着目するのではなく、「子どもの成長の為にどれだけお金が使われているのか」がカウントできる定義にすること、②「子どもの成長」とは決してお金の問題だけではないことに配慮すること、という2点にまとめることが出来た。 そもそもの計画では、本年は「貧困が子どもの生育に及ぼす影響」のポイントを集約することのみであったので、それ以上の成果を得られたことになる。 しかしながら、「子どもの貧困」は現在の社会において重大な問題であり、さらに継続して研究をする必要もある為、本研究は最終年の前半までには結果を出すこととなった。その上でしっかりした論文をまとめるために半年は前倒しをする必要が出てきた。よって、「おおむね順調に進展している」という評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究により、「子どもの貧困」の定義は「大人の貧困」の定義を単に流用している現実を変えなければならないことが明らかとなったので、次年度は新たな「子どもの貧困」の定義や効果的な実態調査方法を模索する為に、「子どもの健全育成とは何か」という点を中心として、文献調査を行い、「公法的」「私法的」「少年司法的」な観点から3名の共同研究者が議論を行って、「一人前の社会人として将来社会を支えていくことの出来る大人への成長に不可欠なものとは何か」「どんな家庭に生まれ育っても、決して子ども達がはく奪されてはならない権利とは何なのか」という「子どもの貧困」の本質的な内容を詰めていく。 その上で、最終年度には、社会的実態を反映するような「子どもの貧困」の定義を規定すること、及び、効果的な実態調査方法を模索することを目標とする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、1つには、もともと長崎において毎回共同研究者との打ち合わせを行う予定であったが、共同研究者の都合により場所を東京へと変更した事や、フィールドワークの場所を、長崎・宮崎・東京から、より「子どもの貧困」に広く取り組んでいる豊島区・江戸川区・松山市に変更した為、旅費の額が変更となったことである。また、2つ目の理由として、実際に研究を開始してみると、当初計画していたよりもより幅広く文献調査をする必要がある事に気づき、打ち合わせの回数も多くなると予想されたことから、次年度以降の研究資金に回す為、計3回分の共同研究者との打ち合わせの旅費を、科研費から支出しなかった事である。 次年度の使用計画としては、前年度のフィールドワークから得られた「子どもの貧困を定義づける為に、核となる『子どもの健全育成に必要なものは何か』」という観点から、「一人前の社会人として将来社会を支えていくことの出来る大人への成長に不可欠なものは何か」「どんな家庭に生まれ育っても、決して子ども達がはく奪されてはならない権利とは何か」についての文献調査を、法律文献のみならず学問分野を超え、諸外国も参考にすることでより広く行い、「子どもの貧困」の定義や調査方法を模索するために、さらに打ち合わせの回数を増やして検討する計画である。
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