2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K03294
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金井 雅彦 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (70183035)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 接調和写像 / トンプソン群 |
Outline of Annual Research Achievements |
グロモフかいまで言う幾何学的群論を提唱してから 30 年が経過し,近年はわが国においてもおおいに盛況を呈している.ところで,とくに「純度の高い」離散群を研究対象に選んだ場合,それを研究する手法が組み合わせ論に限定されてしまう場合がある.これが理由で,幾何学群論の敷居は低く感じられがちであり,それが若手の参入を容易にしていることは否めない.しかし,研究に値する離散群の背後には,それが自然に作用する空間とその上の豊かな構造が必要である.それなくしては,豊穣な数学は展開できないはずである.この観点に基づき,以下のふたつの研究を平成31年度に実施した. 1.葉層化多様体からの接調和写像の研究 考える離散群は半単純高階リー群の(一様)格子である.その格子が作用する空間としては,そのリー群に付随したリーマン対称空間を考えるのがふつうである.しかし,ここではそれに代えて,その対称空間上のファイバー束であってグラスマン多様体をファイバーとするようなものを考える.そのファイバー束にはリー群の階数を次元とするユークリッド空間が自由に作用している.そこで,その作用の軌道を葉とする葉層構造を考えることができる.その葉層にそって調和な関数および写像に関する考察を行った.基本的な指針は,葉層構造の接方向には調和積分論を,法方向にはエルゴード理論を適用するというものである. 2.トンプソン群 F が作用する空間の幾何構造 トンプソン群 F に対するわたしの知見はきわめて限定的であるが,先行研究をいくつか見る限り,それは「純度の高い」離散群であるように見える.そこで,それが作用する連続な空間,およびその上の幾何構造を構成することを試みた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.葉層化多様体からの接調和写像の研究 まず実現すべきは,松島の消滅定理の「統一的」な証明であった.ベッカ等によるユニタリ表現論の結果を援用すればそれが実現可能であることはすでに確認済みである.ところで,ベッカ等の結果を利用するのは,ある条件を満たす接調和関数の存在を示す際にであった.さらに関数に代えて空間に値をとる写像を考える場合には,問題が非線形になるためユニタリ表現論の結果を直接援用することはもはや望みようもない.接調和写像の存在を「自前」で行う必要がある.グロモフによる接調和写像の存在定理が有効ではないかと思い,それを適用することを試みたが,現時点では成功していない.そこで,写像の値域が対称空間である場合,それに付随した半単純リー群のユニタリ表現を用い,対称空間を無限次元ヒルベルト空間に等長的に埋め込むことにした.すると,対称空間への写像をそのヒルベルト空間への写像と考えることができ,その結果線形性を再度獲得できる.ただし,得られたのは関数空間の線形性であり,微分方程式自体は非線形である.それから派生する困難に直面しているというのが,現状である. 2.2.トンプソン群 F が作用する空間の幾何構造 これに関しては,極めて重要な発見をしたように感じている.しかし,現時点ではそれについて詳しいことを言うのは避けたい.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,トンプソン群に関する研究を遂行したい.強力な共同研究者が現れることを期待している. もう一方の接調和写像の研究も適当な時点で再開したいと望んでいる.写像の値域が無限次元空間である場合が最終目標である.それを完成させるのが,大きな夢である.
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