2018 Fiscal Year Research-status Report
Hubbard模型における磁性の安定性の厳密解析:作用素不等式によるアプローチ
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18K03315
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮尾 忠宏 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (20554421)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 強磁性 / 作用素不等式 / Hubbard 模型 / Heisenberg模型 / Liebの定理 / Nagaoka-Thoulessの定理 / 強相関電子系 / 基底状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
多体電子系における強磁性の安定性に関する抽象論を構築した.この抽象論の重要な応用として,(1)Liebの定理の安定性及び(2)Nagaoka-Thoulessの定理の安定性を「普遍性」という概念を導入して証明した.より正確には,電子・格子相互作用,電子・量子電磁場相互作用あるいは環境に起因するランダムネスを考慮に入れてもLiebの定理やNagaoka-Thoulessの定理が依然として成立することを証明した.これらの安定性は,現実世界において電子は様々な摂動の影響を受けているにも関わらず,なぜ安定した強磁性が実際に観測されるのかという問いへのひとつの答えを提供していると考えられる.このような視点はこれまでになかったものであり,国際的な専門誌に論文を現在投稿中である.
この安定性を記述する数学的な枠組みを構成するために,新たな数学構造を発見した.簡単に述べると,この構造は様々なハミルトニアンの間にあるこれまでに知られていなかった順序関係(大小関係)のネットワークであり,そのネットワークに属するハミルトニアンの基底状態は共通の磁性的性質を有している.平成30年度の研究で,このネットワーク構造が磁性の安定性を記述することができることを突き止めた.この数学的な部分についても現在,論文を準備中である.
ここで述べた結果について,日本数学会の特別講演など,いくつかの研究集会で招待講演を行った.また上述の問題から派生した課題についても研究を進め,関数解析のトップジャーナルに論文を掲載した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今回の研究で,強磁性の安定性を記述する数学的な枠組みのひとつを構成できた.この枠組みがあるおかげで,極力単純化された模型において強磁性の構造を調べれば,より複雑な模型においても同様の強磁性構造があることがわかる.そのため,提案している課題が単純化され,次年度以降の目標が明確になったといえる.
さらに,今年度の研究を通じて,当初はあまり予想していなかった基底状態の構造が見えつつあり,新しい作用素論的な解析手法の発展につながるのではないかと期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに知られていない新しい強磁性構造を,単純化された模型で構成することが目標になる.この目標を達成するためには,さらなる作用素不等式の研究が必要であろう.そのため,今後も数学と物理の双方の側面からHubbard模型やHeisenberg模型を解析していく.
今年度の研究を通じて,基底状態のエンタングルメント構造についても新たな知見が得られており,量子情報的な視点による研究も今後は合わせて行っていく.
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