2018 Fiscal Year Research-status Report
銀河団からブラックホールに至る冷たいガスの流れとAGNの活動性の研究
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18K03709
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
永井 洋 国立天文台, アルマプロジェクト, 特任准教授 (00455198)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 活動銀河核 / ブラックホール降着流 / 銀河団コア / アルマ望遠鏡 / 分子線観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の狙い】ペルセウス銀河団中心に存在する巨大楕円銀河NGC 1275 から放射される分子ガス輝線を、アルマ望遠鏡(以降アルマ)を用いて、これまでにない解像度で観測を行う。この観測によって、中心10-1000 pc スケールにおける冷たいガスの流れの空間分布・運動を明らかにし、銀河団からブラックホールに至る冷たいガス降着(cold accretion)の実体を調査する。本観測によって、(1) kpc スケールで見られる分子ガスフィラメントと核周円盤との関係、(2) 数値実験から予想される降着流の非一様性、(3)「ひとみ」衛星で発見されたFe-Kα 輝線の所在、といったテーマの解明に取り組む。 【2018年度行った研究】アルマサイクル5において、本研究を遂行するための観測を行った。NGC 1275の中心20pcスケールを空間分解することに成功し、中心100pc以内に、低温分子ガス(CO, HCN. HCO+)が形成する回転する核周円盤を発見することに成功した。また、核周円盤と銀河団スケールをつなぐ、COガスのフィラメントの検出にも部分的に成功した。フィラメントの空間分布・速度構造は複雑で、乱流的な描像が必要になることがわかった。銀河団コアにおける数値実験でも、同様の降着流(Chaotic Cold Accretion)が予言されていて、それを再現する結果となった。核周円盤とフィラメントにおける分子ガスの質量降着率を見積もったところ、高温ガスの降着率と同等以上であることがわかった。これは、ペルセウス銀河団中心におけるブラックホールへの質量降着において、低温ガスの寄与が大きいことを意味する。また、観測された分子輝線の速度幅と、Fe-Kα輝線の速度幅との関係から、分子ガス核周円盤とFe-Kα放射源は部分的に一致することが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初想定した観測計画に対して、部分的にしかデータが取得できなかったものの、概ね、研究目的を達成できる質のデータを得ることができた。2018年度は、データ解析と論文執筆を行い、2019年3月にAstrophysical Journalに投稿を済ませた。2019年4月にレフェリーからのコメントを受け取り、現在、改訂作業を行っている。夏ころまでには出版できる見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)アルマサイクル6で、さらに空間分解能の高いデータを取る予定で、中心10pcを切る領域を解像する。この領域は、NGC 1275のボンディ半径に相当する。ボンディ半径はブラックホール(BH)の重力が、高温ガスに対して影響を及ぼしている距離に相当する。これよりも内側における高温ガスの落下は、ボンディ降着率によって定義される質量降着率を超えることはない。この領域における低温分子ガスの運動状態を調べ、質量降着率を見積もることで、BHの活動において高温ガスと低温ガスのどちらの役割が支配的かを調べる。 (2)アルマの観測によって発見された低温分子ガス円盤の空間構造、運動については、かなり理解が深まったものの、観測された分子輝線が放射されるための化学的条件から、核周領域の物理的・科学的性質について理解を深められる可能性がある。アーカイブデータ中に、別の分子輝線の観測データがあるので、そのデータも含め、考察を深める。 (3)アルマサイクル5のデータから、想定していなかった興味深い結果を得た。HCNとHCO+スペクトルに吸収線を発見した。この吸収線は、青方偏移していて、吸収体がBH付近から我々に向かって秒速数百km程度で運動していることが示唆された。この吸収体の場所と、吸収量の時間変化を調べるべく、波長3mm帯のVLBI観測を行った。HCN(1-0), HCO+(1-0)の吸収線を狙った観測で、うまく吸収体が検出されれば、BH近傍における分子ガスの性質に深く迫れる。このデータ解析に取り組む。 (4)イベントホライズンテレスコープ(EHT)によるM87のBHシャドウの結果が発表された。NGC1275は、M87に比べて3倍遠くにあり、シャドウ自体の撮影は難しいが、依然としてBH近傍を理解する重要な天体である。本研究の理解を深めるためにも、次回のEHT観測提案に盛り込むことを検討する。
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Causes of Carryover |
旅費、物品購入の概算見積もりと、実際の購入金額との間に差が生じた。差額は1677円であり、事前にこの精度で見積もりを合わせることが難しかった。次年度の物品購入の際、見積もりとの差額がマイナスになってしまった場合、繰り越し金をあてることにする。
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Research Products
(9 results)