2018 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of disease ocurrence mechanizm and establishment of their protection of Asparagus kiusianus
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18K05652
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松元 賢 九州大学, 熱帯農学研究センター, 准教授 (60304771)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ハマタマボウキ / アスパラガス属野生種 / 絶滅危惧種 / 九州北部沿岸域 / 病害発生消長 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国の食用アスパラガス病害の90%以上は植物病原菌による病害で、中でも、アスパラガス茎枯病は一旦罹病するとその根絶は極めて困難であるにも関わらず、食用アスパラガス種内には病気に強い品種が見つかっていない。アスパラガスでは耐病性品種の育成が強く望まれているが、本植物は多年生で交雑しにくく、品種育成には多大な年数がかかり、かつ、アスパラガス品種内には耐病性形質が存在しないなど、耐病性品種育種のハードルは極めて高い。申請者らの研究チームは、日本産アスパラガス植物の一種であるハマタマボウキと食用アスパラガスとの交雑種が、茎枯病に耐性があることを世界で初めて明らかにした。 ハマタマボウキは、日本固有種の一種で九州北部沿岸のみに自生する希少種であるため、生息域は限定的で非常に狭く、本植物の病害記載が存在しないことから、病害に強い植物であると認識されていた。しかし、近年の申請者の現地調査では、罹病化したハマタマボウキを発見しており、これまでの病気に強いという認識を覆す結果を得ている。また、ハマタマボウキ自生地近隣は、九州の食用アスパラガスの大生産地であることから、アスパラガス属植物間の相互感染による新規病害の発生や病害の進展化、希少種の生息域の減少が懸念される。さらに、ハマタマボウキの持つ耐病性のポテンシャルから、育種研究を目的とした乱獲や国外への流出が耐病性品種の育種の障害となる可能性が示唆される。 そこで、本年度は、ハマタマボウキの自生環境特性の解明を目的に、現地の成育調査を実施し、自然感染した複数の罹病植物個体の存在を多数確認するとともに、その一部を研究室に持ち帰り、病害発生の実態解明を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
繁殖地である九州北部沿岸域の砂浜を採集し、ガラス温室において現地で採種したハマタマボウキの種子を砂地に播種し、ハマタマボウキの育苗を試みた。また、対象区として、アスパラガスの栽培用土壌(野菜の栽培土)にも同様にハマタマボウキの種子を播種し、育苗を行った。その結果、ハマタマボウキは砂地および野菜栽培土いずれの土壌においても栽培が可能であることを見いだした。これらの結果は、ハマタマボウキは必ずしも砂地での繁殖が必要不可欠ではなく、砂地以外の普通の土壌でも繁殖が可能であることを示しているにもかかわらず、ハマタマボウキの繁殖地が砂浜のみであることを考えると、現在の自生地は、他の植物の侵入が困難な砂浜地までハマタマボウキの生育地が後退した結果である可能性が示された。 また、自然感染個体から原因となる病原菌を分離し、接種試験を行った結果、罹病化の原因菌として、Phomopsis asparagi, Diaporthe unshuensis, Neopestalitiopsis spp., Alternaria spp., Fusarium acuminatum, およびF. tricinctumの植物病原糸状菌類が確認された。これらの病原糸状菌のうち、P. asparagiはアスパラガス茎枯病の原因菌であるとともに、Alternaria属菌はアスパラガス斑点病の原因菌であることから、ハマタマボウキと食用アスパラガス両方に感染できる可能性が示唆された。また、これらの糸状菌以外の病原菌については、食用アスパラガスへの病害の報告はないため、今後、ハマタマボウキから分離された病原糸状菌の食用アスパラガスへの病原性の可能性について調査する必要があると思われる。さらに、自然発病罹病個体からは本属菌以外の糸状菌も複数種類分離されており、これらの糸状菌の病原性の可能性についても解明する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ハマタマボウキの自生地の調査が福岡県および佐賀県で実施しており、長崎県や熊本県、山口県などでの実地調査が必要であるため、次年度においては、さらなるハマタマボウキの自生地の調査を実施する。可能であれば、九州北部沿岸域の長崎県の諸島群や韓国に面している地域についても、ハマタマボウキのようなアスパラガス属植物が自生している可能性があるため、調査地を拡大して自生環境の特性を調査する予定である。繁殖地の土壌環境(土質、物理化学性、土壌栄養・肥料、土壌構造、土壌微生物群)および繁殖地の気象条件(気温・地温・降水量)について調査し、ハマタマボウキの栽培繁殖に適した圃場環境を構築する。さらに、繁殖環境の調査結果に基づき、ハマタマボウキの栽培に適した栽培繁殖環境を構築する。主に栽培土壌(砂質培土、園芸用培土、農業培土等)、肥料(リン酸、カリウム、窒素、微量要素)、灌水条件や日照条件などの条件について検討する。 調査地の範囲を拡大するとともに、自生地において、被害個体の有無を調査し、罹病個体をサンプリングして、罹病化の原因となっている病原菌の特定を実施する。昨年度に判明した5属菌以外の病原菌について接種試験を通じて病原性を確認し、罹病化の原因菌を特定する。P. asparagiやAlternaria属菌については、食用アスパラガスから分離した菌株との生理的性質や分子遺伝学的性質を比較することによって、これらの病原菌類の多様性解析と他のハマタマボウキ分離菌の食用アスパラガスや他の野菜類に対する病原性試験を実施する。また、ハマタマボウキ自生地の根圏土壌に生息する微生物を選抜し、ハマタマボウキ分離菌と対峙培養させることにより、病原菌の生育を抑制・拮抗する微生物をスクリーニングする。これらの微生物を生物的防除資材として利用するための栽培試験を実施して、病害抑止技術を確立する。
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Causes of Carryover |
平成31年3月に開催された平成31年度日本植物病理学会大会に参加した際の旅費の精算において、2135円の差額が生じた。従って、本金額が次年度の使用金額となった。 使用計画については、ガラス器具類の消耗品の購入を計画する。
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