2018 Fiscal Year Research-status Report
古文書から解き明かす江戸時代の森林利用が現生森林へ与えた影響
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18K05720
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井出 雄二 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 名誉教授 (90213024)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齊藤 陽子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00302597)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 森林史 / 伊豆半島 / 植生 / ブナ林 / 薪炭利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
30年度に計画した、ブナ林の現地調査を天城山系西部の4林分について実施し、林分構造について検討した。これとこれまで実施した山系東部での調査結果を合わせて検討した結果、高齢ブナ林では大径木で枝下の低い箒状樹冠を持つ個体が多く存在することが示され、これらの個体が成長する時期に、当該地域が疎林をなしていたものと推定された。 また、これまで収集したブナ年輪コアの統一的な解析を進め、現存の天城山ブナの成立は、江戸時代から昭和初期にかけて連続して起こったことが明らかになった。調査中に発見された炭窯跡や古文書に見える森林利用の進展と合わせ考えると、ブナの成立は、炭焼きによる疎林化と同時に連続的に起こっていたことが示された。これについては森林学会大会において発表した。 古文書については、伊豆林政史資料の複写を進め、全19巻2156ページについてPDF化し、文書番号、ページ数を付してリスト化した。今後公表に向けて、簡便な検索ができるよう編集作業を行う予定である。 この作業中に見いだされた、「御林境目分間野帳寫(狩野口)」および「御林境目分間野帳書上(仁科口)」について、記載測量データをもとに御林境の地図を作製、現在の国有林界および昭和初期の御料林時代の地図と比較した。その結果、現在の国有林は江戸時代の御林の境界(狩野口、仁科口について)をほぼ引き継いでいることが明らかとなった。測量野帳中に記された、字名などの情報は特に古文書に記載の字名と現地を対比する上で貴重な資料となりえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画した、ブナ林の調査は目標どおり達成した。 また、「伊豆林政史資料」の内容を精査し、文献のリストを作成したことで、今後の調査の基礎を固めることができた。 さらに、ブナの成立年代を、天城山全域について明らかにすることができ、江戸から昭和初期にかけて、ブナの更新が広く起こっていたことを示し、天城山におけるブナ林成立のプロセスを議論する基礎が確立した。
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Strategy for Future Research Activity |
ブナ林分調査データと、江戸時代のブナおよびケヤキの毎木調査データを比較することで、江戸時代のブナがどういう状態の林分を構成していたのかについて議論する。 伊豆林政史資料の目録及び索引を作成して、広く一般に公開する。 古文書データに基づいて、江戸時代の植生状況を復元し、森林利用と植生の関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
調査補助として、人件費10万円を計上していたが、実際には研究室メンバーのみで現地調査を行うことができた。また、資料の整理等に必要な消耗品についても、コンピュータ上の作業が中心となったために余剰が生じた。次年度使用額については、今後、発生する研究成果公表のための物品費ならびに学会発表、現地調査のための旅費として使用する予定である。
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