2018 Fiscal Year Research-status Report
Inprovement on the shortened annual cycle system for xylem formation
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18K05761
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
馬場 啓一 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (20238223)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 木部形成 / 植物の成長 / 環境要因 / 人工気象器 / 周年性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人工環境下においてポプラの周年性を短縮させつつ、より自然環境に近い木部を形成させる育成条件を見出し、季節依存的木部構造の形成を実験室内で短期間に現出させるモデル系を確立することを目的としている。 実施者は数年前前から人工気象器と培養室を用いて黄葉・落葉・休眠・休眠打破を含む周年期間を4ー5ヶ月に短縮してポプラを育成してきた。この系では、成長輪界の木部構造は野外のものと酷似していたが、成長輪終盤における道管径の推移が野外のものとは若干異なっていた。より自然な成長輪が形成されるようになれば、多様な研究目的への使用に耐え得るモデル実験系が実現し、樹木生理学の著しい進展が期待できるので、3ステージで構成されている現在の系の秋に相当するステージ2の育成条件を検討した。条件の検討によって、道管径を決定する主な環境要因が温度か日長のいずれなのかも明らかにできる。 周年短縮系のステージ2における日長または温度のいずれかはこれまで通りの条件で固定し、他方を徐々に下げていく方法でポプラを育成した。即ち、日長を8時間に固定して、温度を徐々に下げていくパターン(T変)と、温度を15℃に固定して、日長を徐々に短くしていくパターン(D変)を用いた。育成は2セット行い、1セットは先にT変育成して後にD変育成、もう1セットはその逆でD変育成した後にT変育成した。いずれも2巡育成した後に樹幹を採取して形成された木部の組織構造を観察した。いずれの場合も育成順に関係なく、道管径の推移はT変条件の時に野外環境のものに近く徐々に小さくなることがわかった。このことは、道管径の決定要因が日長より温度依存であることが判明しただけでなく、本研究で用いている周年短縮系が晩材部の材形成研究にも条件検討次第で応用可能であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3ステージで構成されているポプラ周年短縮系の秋に相当するステージ2の条件検討を、申請書に記載した通りの2種類を両方とも試験することができた。即ち、日長を8時間に固定して、温度を徐々に下げていくパターン(T変)と、温度を15℃に固定して、日長を徐々に短くしていくパターン(D変)のそれぞれで育成して形成された木部の構造を観察することができた。しかも同一個体を用いてT変とD変の両方で育成することや、順番を逆にして育成することによって、道管の径の変化が個体差によらず、温度変化により依存することを明らかにすることができた。 一方で、学会発表した際等に、師部における組織構造上の変化はないのか、それぞれのステージで形成されいる木部が正確にはどこなのか、またステージ1(春/夏)からステージ2(秋)を飛ばしていきなりステージ3(冬)に入れたらどうなるのか、など、課題申請時には想定していなかったけれども、本研究にとって重要な質問がなされ、今後の研究に盛り込むべき内容が増えることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、より自然な成長輪形成の条件が決まれば、応用として遺伝子組換え体ポプラを用いた周年性木部組織構造の形成に対する各種細胞壁多糖類の機能解析を行う予定であったが、遺伝子組換え体を用いる前に、野生株におけるより詳細な組織形成と周年短縮系との関係を明らかにすることが必要となった。即ち、師部組織における組織構造の変化の観察や、ステージ1の後、ステージ2を飛ばしてステージ3で育成した時のポプラの成長や木部形成、各ステージで形成される木部がどの組織なのか明らかにすることを優先する。各ステージで形成される木部の特定については、ステージ2およびステージ3移動時に形成層に傷をつけるナイフマーク法を用いる。ステージ3からステージ1への移動時には成長輪界が生ずるのでマークする必要はない。
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Causes of Carryover |
主に旅費を他の費用から賄ったことと、あまり失敗することなく効率良く実験が進行したため、次年度使用額が生じた。今後の研究の推進方策にあるように、口頭発表時に質問された項目や論文審査で指摘されている内容についての追加実験が生じているので、それらの費用に充てる。
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Remarks |
研究所の英文紀要に研究紹介を掲載した。URL先では紀要全文をpdfでアップロードしており、本文中p.1に本課題の内容が記載されている。
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