2018 Fiscal Year Research-status Report
湖沼で神経毒を生産するラン藻類のモニタリングと制御に向けたゲノム基盤研究
Project/Area Number |
18K05785
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
程木 義邦 京都大学, 生態学研究センター, 特定准教授 (60632122)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
朴 虎東 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20262686)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | シアノバクテリア / シアノトキシン / 神経毒 / モニタリング / 比較ゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、神経毒アナトキシン-aを生産するシアノバクテリアCuspidothrix issatschenkoiが特に日本の湖沼で頻繁に出現することが報告されており、安全な水資源確保及び公衆衛生上の問題の回避手法の確立が急務である。本研究では、湖沼における本種有毒株の発生制御手法を確立することを最終的な目的とし、単離培養株のC. issatschenkoiを用い、神経毒合成遺伝子群の遺伝的変異と毒生産能の関係の評価、全ゲノム・遺伝子発現解析を行い、遺伝子レベルで本種有毒株の生態学的特性について評価を行う。また、同時的シアノトキシン検出手法の確立を行うと共に、毒生産遺伝子及び有毒株に特異的な機能遺伝子の定量マーカー作成を行い、湖沼における増殖動態や環境特性の評価を行い、本種有毒株のモニタリングや増殖制御に向けた学術基盤を創成する。 初年度の平成30年度は、培養株のアナトキシン-a合成遺伝子およびゲノム解析の確立とともに、アナトキシン-aを含めた複数のシアノトキシンの分析手法の確立を中心に行った。その結果、培養株に混入している従属栄養細菌をDNA抽出前に除去する手法を決定し、代表的な有毒株であるC. issatschenkoi RM-6のコンプリートゲノムを決定した。また、アナトキシン-a分析手法を確立するとともに、複数の単離株を用い、株間や異なる増殖期におけるアナトキシン-a生産量の変化の測定を行った。今後、複数株でアナトキシン-a合成遺伝子上に生じている変異、保有する機能遺伝子の差異を評価し、アナトキシン-a合成の適応的意義や有毒株の環境特性の評価を行う。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Cuspidothrix issatschenkoiのアナトキシン-a合成遺伝子およびゲノム解析に前段階として、平成30年度は本グループが保有している培養株に含まれている従属栄養細菌の除去方法について検討を行った。通常のピペット法により少数の細胞を繰り返し洗浄し純粋培養株の確立を試みたが、その培養株をDAPI染色しC. issatschenkoiの細胞表面を顕微鏡観察すると、細胞表面に従属栄養細菌が付着しているのが確認された。そこで、従属栄養細菌が混入している状態で大量培養を行い、DNA抽出前に混入細菌を除去する方法に切り替えた。ろ過や遠心処理を使った洗浄方法を検討したが効果が無く、最終的に培養細胞にリゾチームおよび界面活性剤処理を行うことにより、付着している従属栄養細菌の大部分を除去できることが確認できた。この方法を用い、代表的な有毒株のC. issatschenkoi RM-6よりDNAを抽出しゲノム解析用に用いた。ただし、本株は完全な純粋培養株ではなく複数の従属細菌由来のDNAを含むことから、イルミナによるショートリード解析とともにナノポアによるロングリード解析も行い、両データを用いてゲノムアッセンブリを行った。その結果、RM-6のコンプリートゲノムが得られた。また、本株からは複数のプラスミド様の環状コンティグも複数得られた。また、アナトキシン-aを含む複数のシアノトキシンの分析手法の確立を行うとともに、複数の単離培養株を用い異なる増殖期におけるアナトキシン-a生産能についても評価を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究により、Cuspidothrix issatschenkoi単離株のゲノム解析およびアナトキシン-a測定の手法が確立され、C. issatschenkoi RM-6のコンプリートゲノムを決定することが出来た。一方で、培養株に含まれる従属栄養細菌の除去手法の確立に時間がかかり、複数の株のアナトキシン-a合成遺伝子やゲノムの決定には至らなかった。しかし、これらの研究は平成30年度と平成31年度の2年間で行う予定であったため、研究は概ね順調に進んでいる。平成31年は、有毒・無毒株の十数株のゲノムを決定し、保有する機能遺伝子の差異を有毒・無毒株間で比較を行うとともに、アナトキシン-a合成遺伝子上に生じている変異と毒生産の関係を明らかにする。これらの情報をもとに、アナトキシン-a合成の適応的意義、有毒株と無毒株の環境特性の評価を行う。
|
Causes of Carryover |
遺伝子解析に用いる培養株から混入している従属栄養細菌の除去手法の確立に時間がかかり、ゲノム解析に用いる試薬の購入や解析の外注とデータの納品が年度内には難しいと判断し、これらの費用を平成31年度に繰り越した。これら解析の準備はすでに済んでいるため、平成31年度に速やかに使用する。
|