2018 Fiscal Year Research-status Report
異種間顕微授精によるトゲネズミ雄性2倍体胚由来ES細胞の樹立と配偶子形成の誘導
Project/Area Number |
18K06021
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
三谷 匡 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (10322265)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田辺 秀之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (50261178)
岡村 大治 近畿大学, 農学部, 講師 (80393263)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 雄性2倍体胚 / ハイブリッド胚 / ES細胞 / FISH |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題において、平成30年度は、トゲネズミ精子を想定した異種間モデル実験としてラットの利用を計画していたが、ラット精子を用いた異種間雄性2倍体は前核形成ののち発生を停止した。そこで、異種間モデル実験について、モリアカネズミに変更した。モリアカネズミは系統的にラットよりもトゲネズミに近縁であり、またES細胞も樹立されており、マウス胚でのキメラ形成能も確認されていることから、トゲネズミの代替モデルとして有効であるか検証した。 モリアカネズミ精子を除核マウス卵に顕微注入し雄性2倍体胚を作製したところ、前核形成は認めたものの発生は停止した。そこで、マウス卵子がモリアカネズミ精子を受容しうるか検証するために、異種や異属間で生まれるハイブリッド個体に着目し、マウス卵子の除核を行わずラットあるいはモリアカネズミ精子を1つ顕微注入したハイブリッド胚を作製した。ラット-マウス胚はラット精子の前核形成はみられたものの、前核期で発生を停止した。それに対して、モリアカネズミ-マウス胚は、ヘキスト33342を用いて精子頭部の形態を観察した結果、モリアカネズミ精子の前核形成を認めた。さらに、顕微注入後、2前核を形成したモリアカネズミ-マウス胚を体外培養したところ、胚盤胞まで発生した。胚盤胞をマウスフィーダー細胞上でDMEM-KSR/2i培地にて培養することにより、複数株のES様細胞が樹立された。ES様細胞株はいずれもアルカリ性フォスファターゼ染色、免疫組織化学染色(Nanog,Oct4)で陽性を示し、体外培養下において、心筋細胞や脂肪細胞への分化能を示した。しかしながら、核型解析(マウス:2n=40本、モリアカネズミ:2n=48本)において、ES様細胞は理論値となる44本付近を示さず、いずれの細胞株も40本前後であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、トゲネズミ精子を想定した異種間モデル実験としてラットの利用を計画していたが、ラット精子を用いた異種間雄性2倍体は前核形成ののち発生を停止した。そこで、異種間モデル実験について、モリアカネズミに変更した。 モリアカネズミ精子を除核マウス卵子に顕微注入した雄性2倍体胚は、前核形成を認めたものの発生は停止した。そこで、マウス卵子がモリアカネズミ精子を受容しうるか検証するために、異種や異属間で生まれるハイブリッド個体に着目し、マウス卵子への異種間顕微授精によるハイブリッド胚を作製した。モリアカネズミ-マウス胚は、ラット精子では前核期で停止したのに対して胚盤胞まで発生し、さらに、複数株のES様細胞が樹立された。しかしながら、核型解析において、いずれの細胞株も40本前後であり、モリアカネズミ染色体の脱落の可能性が考えられた。そこで現在、モリアカネズミ-マウスハイブリッドES細胞の染色体構成について遺伝子解析とFISH解析を進めている。 本年度計画していた異種精子を用いた雄性2倍体胚由来ES細胞の樹立については、動物種の変更と雄性2倍体胚からハイブリッド胚への変更と2段階の計画修正を行った。しかしながら、ハイブリッド胚の実験から、ラット精子は前核形成後発生が停止するのに対し、モリアカネズミ精子では前核形成後胚発生が進むこと、異種精子由来の染色体は胚発生から細胞培養の過程で不安定である可能性があることなど、マウス卵子の異種精子の受容能について興味深い結果が得られている。ハイブリッド胚を用いた解析は、異種間クローン胚や異種精子由来雄性2倍体胚のプレスクリーニングとして有効な手法となるかもしれない。本アプローチを足掛かりに、異種精子の活性化や胚発生を促すレスキュー法など周辺技術の開発を行い、異種精子由来雄性二倍体胚からのES細胞の樹立へとつなげることで最終成果の達成を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、モリアカネズミ-マウスハイブリッドES細胞の染色体構成について解析を進めるとともに、よりマウスと近縁な種を用いて、ハイブリッドES細胞ならびに雄性2倍体胚由来ES細胞の樹立をめざす。 ハイブリッドES細胞の検証については、遺伝子解析と染色体解析により行う。遺伝子解析については、モリアカネズミゲノムの有無について、複数の遺伝子をターゲットとしてRFLP解析を行っている。染色体解析については、モリアカネズミ染色体はマウス染色体の相同領域が転座によりマウス染色体ペインティングプローブに対してモザイクのカラーパターンを示す。現在、モリアカネズミ-マウスハイブリッドES様細胞株について、マルチカラーFISHによる解析を行っている。また、ハイブリッド胚の作製においては、予備実験でモリアカネズミ精子の前核形成により2前核を有する卵の発生を確認していたが、核型解析の結果から、単為発生の可能性あるいは、胚発生からES細胞の樹立の過程でモリアカネズミの染色体が脱落し、マウス染色体の倍数化が生じた可能性が考えられた。そこで、今後、2細胞期から初期胚の段階で割球に対するFISH解析を行い、染色体ハイブリッドの状態について検討する。 さらに、モリアカネズミはマウスとは属が大きく異なり、ハイブリッド胚の発生が困難であったことが考えられる。そこで、今後は、ハイブリッド個体の発生が示されている同属間、例えば、同属異種のオキナワハツカネズミ(Mus caroli)や亜種のアルジェリアハツカネズミ(Mus spretus)を用いて同様の実験を行うことにより、ハイブリッドES細胞の樹立をめざす。そして、ハイブリッドES細胞が樹立された精子を用いて、異種間顕微授精による雄性2倍体胚の作製を行い、ES細胞の樹立をめざす。本研究は、種の分岐における生殖隔離に関する新たな知見につながる可能性も期待される。
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Research Products
(1 results)