2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K06144
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村松 知成 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (70212256)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | SARS / ウイルス / ポリタンパク質 / プロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
多くのRNAウイルスでは宿主細胞への感染後、ポリタンパク質と呼ばれる巨大なタンパク質が合成され、そこから必要な酵素群が切り出されてくる。この切り出しにかかわる特殊なプロテアーゼもポリタンパク質に含まれていることが多い。SARSコロナウイルス(SARS-CoV)では3CLプロテアーゼがこれに関わる主要なプロテアーゼで、それ自身自己プロセシングにより切り出されてくる。SARS-CoVではポリタンパク質は486 kDaあるいは790 kDaと巨大であるため、この過程を明らかにするためのモデルペプチドとして、その一部である3CLプロテアーゼ領域の前後10アミノ酸残基を含む領域を大腸菌の無細胞タンパク質合成系で発現させたところ、N末端側C末端側両プロセシング部位において自己切断が起こり、成熟型の酵素が生成することを確認した。次に、このモデルペプチドのプロテアーゼ部分のN末端側10アミノ酸残基とC末端側10アミノ酸残基を残し、中央部分を別のタンパク質配列と置き換え、基質としてのポリタンパク質モデルとした。そして、その各種変異体基質に対する切断活性を調べ、N末端側プロセシング部位とC末端側プロセシング部位の認識に差異があることを見いだした。C末端側プロセシング部位では切断箇所の3アミノ酸残基下流のフェニルアラニン残基(Phe)認識されているのに対し、N末端側ではP3’部位は認識されていなかったのである。この認識の差異は切断箇所のN末端側2残基上流のアミノ酸残基(P2部位)に依存し、C末端側プロセシング部位におけるP2部位のPheをN末端側と同じロイシン(Leu)に変換するとP3’部位のPheは認識されなくなった。すなわち、C末端側プロセシング部位ではP2(Phe)とP3’(Phe)が認識されているのに対し、N末端側プロセシング部位ではP2(Leu)のみが認識されているのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SARSコロナウイルスのポリタンパク質プロセシングに関わる酵素3CLプロテアーゼの自己プロセシング(活性化)において、N末端側とC末端側で基質認識が異なることを見いだした。プロテアーゼ切断生成物は、一般的に、そのプロテアーゼに対する阻害物質として働く可能性があるため、自己切断において生成する成熟体のC末端領域には阻害活性が存在する可能性がある。したがって、C末端側プロセシング部位における特殊な認識機構は、成熟体におけるC末端領域が自己に対する阻害を引き起こさないようにするためにウイルスが発達させた機構である可能性がある。 この仮説を補強するために、両プロセシング部位における認識メカニズムの差異をX線結晶構造解析を行うとともに、成熟体のC末端領域の4アミノ酸残基からなるペプチドの阻害活性も検討しており、十分な結果は得られていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
SARSウイルス近縁のMERS-CoV(Middle Eastern Respiratory Syndrome Corona Virus)、手足口病ウイルス(Coxackievirus)等ピコルナウイルス、ノロウイルス、などピコルナウイルス様スーパークラスターに属するウイルスの3Cプロテアーゼまたは3CL(3C様)プロテアーゼ等、数種類のウイルスの3Cまたは3CLプロテアーゼについて、大腸菌由来の無細胞タンパク質合成系での発現を行い、自己プロセシング部位由来の基質を用いた酵素学的研究を行う。 これには申請者の開発した方法を用い、簡便に酵素学的パラメーターを得ることができる(Muramatsu et al., FEBS J. 280,2002-2013 (2013))。具体的には、ポリタンパク質中でのウイルス領域とその前後のプロ配列10アミノ酸残基を含む形で発現するプラスミドを作成する。プロテアーゼのコア領域をサイズの異なる別のタンパク質(たとえばGFP)に置き換え、これを基質とする(オートプロセシングによる切断の特異性をトランス反応により調べる)。プロテアーゼ(3CL)および基質を大腸菌無細胞タンパク質合成系により別個に発現し、それらを混合し、インキュベートすることにより基質の分解をSDS-PAGEによりモニターする。この際、酵素(3CL)の希釈系列を作成し、一定時間に50%基質を分解する希釈率でkcat/KMを見積もる。この際、ある一つの基質について別に測定したデータ(ラインウィーバーバークプロット)を基準とする。 それぞれの酵素について、基質分子の、P4,P3,P2,P1,P1', P2', P'3, P4'位のアミノ酸置換を行い、特異性を検討する。この 際、各部位の変異導入よる切断されやすさを検討するとともに、各部位間での協同性も検討する。
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