2018 Fiscal Year Research-status Report
オーソログ遺伝子群を用いた嗅覚受容体遺伝子のゲノム進化解析と環境要因との相関
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18K06359
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新村 芳人 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (90396979)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 嗅覚受容体 / 遺伝子ファミリー / 哺乳類の進化 / フェロモン / ゲノム進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、以下の研究実績を得た。 (1)霊長目の嗅覚受容体(OR)遺伝子に関する論文が国際誌Molecular Biology and Evolutionに掲載された。霊長類の進化過程における嗅覚系退化の主要な要因を明らかにするため、系統的・形態的・生態的に多様な24種の霊長類のOR遺伝子に対して統計的な解析を行った。その結果、OR機能遺伝子数と、鼻の形態および食性との間に有意な相関が見出され、目・鼻の解剖学的構造が変化した直鼻猿類の共通祖先の系統、および果実食から葉食へと食性が変化したコロブス類の共通祖先の系統において、OR遺伝子の大規模な消失が引き起こされたことが示された。この成果は、平成30年4月11日付の朝日新聞に掲載された。本研究は、本申請課題を遂行する上で基礎となるデータを提供するものである。 (2)ヒトの進化過程においてどのような匂いが重要であったかを明らかにすることを目的として、(1)で同定したホミノイドのオーソロガス遺伝子グループ(OGG)を利用して、ヒトの系統で正の淘汰を受けたOR遺伝子の抽出を行った。また、ヒト千人ゲノムデータベースを用いて、ORの分離偽遺伝子(個人によって機能遺伝子/偽遺伝子であるような遺伝子座)の抽出や個人・民族間におけるOR遺伝子レパートリーの差異の抽出を行った。 (3)平成31年1月に、100種を超える新規哺乳類ゲノムが一気に公開され、全ゲノムが決定された哺乳類の種数は300を超えた。これらの新規ゲノムデータを解析に加える必要があることから、OR遺伝子の網羅的同定を開始した。 (4)本申請課題の手法は、OR遺伝子以外の化学感覚関連遺伝子にも適応可能である。フェロモン受容に関するタイプ2鋤鼻受容体のリガンドであるペプチド性フェロモンESP遺伝子ファミリーに関して、その進化と起源に関する解析を行うとともに、論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記【研究実績の概要】(2)に関しては、ヒトの進化過程において重要だったと考えられるOR遺伝子の抽出はおおむね完了したため、順調に進展していると言える。(3)に関しては、すでに100種を超える哺乳類ゲノムからOR遺伝子の網羅的同定を行い、それらをOGGに分類する作業もかなり進展していた。しかし、平成31年1月に、100種を超える新規哺乳類ゲノムが公開された。これほど一気にデータ量が増加することは想定しておらず、これらのゲノムデータも解析に加える必要があることから、OR遺伝子の網羅的同定をやり直した。そのため、(3)の課題については想定よりもやや遅れている。(4)に関しては、すでに論文の原稿が書き上がっており、順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、以下の推進方策で研究を進める。 上記(2)に関しては、ヒトの進化過程で重要な機能を果たしたと考えられるOR遺伝子の抽出を更に行い、その結果を精査する。また、ネアンデルタール人・デニソバ人のゲノムからOR遺伝子を同定し、現生人類のOR遺伝子との比較を行う。さらに、共同研究者とともに、抽出されたORの機能解析を進める。(3)に関しては、新規に決定された哺乳類ゲノムデータからのOR遺伝子同定作業を完了させ、それらをOGGに分類する作業を進める。(4)に関しては、論文を完成させ、投稿する。
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Causes of Carryover |
平成30年度に、解析用の新規ワークステーションを購入する予定であったが、すでに研究室にあるワークステーションで計算可能であったため、平成30年度の購入は見送った。しかし現在、300種を超える哺乳類ゲノムデータを同時に扱っていることから、ワークステーションのスペックが不足してきている。そこで、どの程度のスペックが必要かを再度検討した上で、本年度に新規ワークステーションを購入する。
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Research Products
(16 results)