2018 Fiscal Year Research-status Report
Physiolosical impact of synaptic vesicle filling with neurotransmitter
Project/Area Number |
18K06493
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
堀 哲也 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (70396703)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シナプス / 哺乳類 / 中枢神経系 / パッチクランプ / 電気生理学 / シナプス小胞 / 神経伝達物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経系のシナプス放出部位においては、シナプス小胞は神経伝達物質を開口放出した後、エンドサイトーシスによって回収され、開口部位へとリサイクリングされる。リサイクリングの過程でシナプス小胞は神経伝達物質を最充填し、新たな開口放出に備える。小胞への神経伝達物質充填に必要な時間は小胞の再利用に必要な時間を規定しシナプス伝達強度を修飾しうる可能性があるものの、測定の困難さが技術的制約となり詳細な研究が行われていない。本研究課題では、中枢神経系において主要なシナプス伝達を担うグルタミン酸およびGABAのシナプス小胞への再充填時間測定技術を脳の広範囲の部位で適用し、その普遍性、あるいは部位特性を解明することを長期的な目的としつつ、まずは小脳と海馬における複数の異なるシナプスを主要な研究対象として研究手法の確立を目指すことを第一の研究目的とし、シナプス小胞充填時間の修飾機構と、神経活動頻度に及ぼす影響の解明を第二の研究目的とした研究計画を立案した。 申請者は、山下らと共同で、シナプス小胞GABA充填速度はシナプスが高頻度で活動した場合、シナプス応答強度に寄与する重要なパラメータであることを報告した(Yamasita et al, Cell Reports, 2018)。そこで申請者は第一の研究目的と第二の研究目的の優先度を変更し、平成30年度はグルタミン酸シナプス充填時間の就職機構と、神経活動頻度に及ぼす影響の解明を行った。具体的には、1型小胞グルタミン酸輸送体欠損マウスを用いて、神経伝達物質のシナプス小胞充填速度が、高頻度で活動する神経伝達へ及ぼす影響を観察した。野生型動物と比較し、輸送体欠損マウスでは小胞充填速度が著しく減少し、かつシナプス伝達効率の低下が観察された。現在論文を投稿準備中である。また、この成果は2019年度神経科学学会(新潟市 7月)での報告を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、神経情報処理における「素量」の重要性を理解するため、小脳および海馬神経回路を構成する主要な細胞のシナプス素量成立時間を異なるシナプス結合ごとに個別に測定し、その生理学的意義を解明する研究としてその研究課題を立案し、研究に着手した。具体的には、電気生理学的手法と光学的手法を組み合わせて用い、神経伝達における素量成立時間の重要性の解明を目的とした。 本研究課題立案時においては、シナプス小胞充填の普遍性、あるいは部位特異性を、申請者が脳幹で行った知見と技術をもって解決にあたり解明する点を研究課題の最優先事項と定めて研究に着手したが、抑制性神経伝達物質充填機構の解明とその生理学的意義の研究において、小胞充填速度が中枢神経系の情報処理にとって重要なパラメータであることが浮き彫りになり、当初の予定を変更して、充填機構の生理学的意義の解明を優先して解明する実験を行った。 申請者は、1型小胞グルタミン酸輸送体欠損マウスを用いることで、(1)野生型と比較し、1型輸送体を欠く動物ではシナプス小胞へのグルタミン酸の輸送速度が著しく損なわれる事、一方、(2)輸送体の欠損は細胞小器官としてのシナプス小胞の回収、再利用機構へは影響しない事、また、(3)輸送体の欠損により、神経が長期間高頻度で活動した場合、神経伝達に支障をきたす事を観察した。 平成30年度は、研究着手当初第一課題とした「シナプス小胞充填速度の脳部位特異性」については進展しなかったが、一方、第二研究課題として平成31年度以降に実施を予定していた「神経活動における素量成立時間の重要性」については当初の予想を超え大きく進展し、論文投稿に必要な研究課題をおおむね完了した。 研究課題の総合的な進捗状況としては、順調に進展していると自己評価する。引き続き、第一課題の進展に向け一層の努力を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度以降は、当初第一優先課題として予定した、様々な脳部位における小胞獣的速度測定実験の実験手法の確立を目標とし研究を推進する計画である。具体的には、興奮性シナプスである小脳苔状繊維軸索終末―顆粒細胞間シナプス、抑制性シナプスである分子層籠細胞軸索終末―プルキンエ細胞間シナプス、プルキンエ細胞軸索終末―深部小脳核細胞体シナプス、海馬歯状回顆粒細胞苔状繊維終末―CA3野錐体細胞シナプスの4つの異なるシナプスにおいて、光分解グルタミン酸および光分解GABAを用いた電気生理学的測定によるシナプス小胞充填速度の計測手法の確立を行う。またグルタミン酸感受性色素を小胞特異的蛋白質抗体分子と組み合わせ、シナプス小胞内グルタミン酸イメージング法の確立を目指す。このための基幹技術となる基礎研究を、電気生理学的手法を用いた実験結果と照合、検討する事により、より正確、かつ広範囲を網羅する充填速度計測と、充填速度の変化に伴う組織全体の脳計算能力への影響を網羅的かつ高精度の分解能で解析する事を試みる小脳および海馬回路を構成する異なる4種類のシナプスにおける小胞充填時間を測定し、シナプス小胞充填時間の普遍性、あるいは部位特異性を比較検討し、明らかにする。 それぞれのシナプスにおいて、シナプス前終末―後細胞同時パッチクランプ電気記録を適用し、シナプス前終末細胞質中に光分解伝達物質を導入し、電気生理学的手法と光学的手法を組み合わせて、神経伝達におけるシナプス素量成立時間の計測を行う。脳幹でのこれまでの研究知見と、小脳や海馬のそれぞれのシナプス間における神経伝達物質充填速度を比較し、素量成立時間は部位を超え均一なのか、それとも部位特異的に異なるのか、また、素量成立時間の不均一性の生理学的な意義とはなにかを考察し、検討する。
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