2020 Fiscal Year Research-status Report
分子表面の有用構造を標的としたD-アミノ酸酸化酵素阻害剤の創出
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18K06580
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
加藤 有介 東京薬科大学, 生命科学部, 研究員 (70596816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福井 清 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 非常勤講師 (00175564) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バーチャルスクリーニング / タンパク質表面 / 計算科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の分子表面等の部位を標的とする阻害剤の探索を目的としている。そこでまずDAO分子表面の化合物結合サイトの探索研究を行った結果、FAD結合部周辺のグルーブが有力なサイトの1つであることが明らかとなった。このサイトを標的とする化合物のvirtual screening (VS)を独自の多段階VSのアプローチにより実施し、候補化合物の絞り込みに成功した。これらの化合物を入手しDAOに対する阻害能の評価を行ったところ、阻害能を示す化合物が得られた。多段階VSでは異なるドッキングアルゴリズムと評価関数を組み合わせることで化合物の絞り込みを行ったが、こうしたアプローチの有用性を示す結果が得られたと考えている。 また国際的な共同研究の枠組みにより関連する阻害剤探索研究を実施しDAOの新規阻害剤を発見し、その阻害機構をX線結晶構造解析と分子動力学解析により解明し論文化に成功した。 一方、新たにDAO分子表面のループ構造に着目し、このループが基質や阻害剤とDAOの間の相互作用に影響を及ぼすことを変異体等による解析により解明した。こうした知見はDAOの分子表面構造がDAO阻害機構に重要な役割を果たすことを示唆している。 さらに上記のような阻害剤探索戦略の他の酵素への応用を目指し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)由来プロテアーゼ3CLproに対する阻害剤の阻害機構解析も実施した。3CLproには表面に露出し溶媒がアクセス可能な大きな裂け目(cleft)が存在することから、この部位を標的とする阻害剤のmoiety置換による阻害能への影響を計算科学的アプローチにより検討した。SARS-CoV-2阻害薬開発のために酵素分子表面を利用したアプローチが貢献し得るかどうか検討することは社会的にも意義が高いと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではDAOの分子表面等の部位を標的とする阻害剤に着目した研究を展開している。これまで予備的な取り組みとして16万化合物のVirtual Screening (VS)を実施し、計算機への負荷を評価した。多段階VSでは複数の種類のVSプログラムを利用することになるが、プログラムによりかなり大きな処理速度の差があることが明らかになった。この速度の違いは各リガンド化合物のコンフォメーション探索の処理時間や標的タンパク質とのドッキングポーズ計算の精度の違いによるものと考えられる。多段階VSの初期段階に処理速度が速いプログラムを配置することが多段階 VS全体の処理速度を向上させることに繋がるが、予測精度を高める保証とはならない。今後、より多数の化合物のVSを行う際の戦略構築の際、予測精度と計算速度に関するトレードオフの必要性が生じる可能性も考えられる。先行研究における多段階VSにおいてこうした問題について議論は限定的である。初期段階で計算精度を犠牲にしてより多くの化合物を試す戦略は知られるが、計算機性能の向上に伴いそうした戦略の見直しも可能かも知れない。 VS研究を行う上でもう1つの重要なポイントとして、標的部位の設定がある。ある酵素分子上の潜在的な標的部位について、システマティックに探索・検討された例は少ない。本研究では、これまでのDAO研究の知見をもとに複数箇所の標的部位を検討している。そのうちの1つである分子表面のループ構造がDAOと阻害剤の相互作用に重要な働きがあることが我々の研究により明らかとなった。 さらに将来の応用の可能性を模索してSARS-CoV-2由来プロテアーゼ分子表面に結合する阻害剤のmoietyを計算機上で置換することで阻害能に与える影響を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究からDAO分子表面に酵素活性に影響を及ぼす可能性のあるサイトが複数存在することが分かっている。これらのサイトに対して作用することで酵素活性を阻害する化合物の探索を目指して研究を行っている。そのうちの1つはFAD結合部周辺のグルーブであり、このサイトに対して独自の多段階VSを実施し候補化合物の絞り込みに成功した。もう1つのサイトは基質エントリーに関与するとされるループ構造であり、このサイトの構造変化が酵素活性や阻害剤の働きに影響を与えることが明らかとなった。また国際的な共同研究によりDAOの新規阻害剤を発見し、その作用機構を計算科学と構造生物学に基づいたアプローチにより解明した。さらに研究を発展させSARS-CoV-2阻害剤のmoietyの検討を計算科学に基づいたアプローチにより実施している。これらの知見に基づき計算科学に基づいた分子表面と相互作用する阻害剤の探索を検討している。 VSは計算の精度と速度をトレードオフし最適なパフォーマンスが得られるよう設計されているが、近年の GPU搭載計算機等の発展によりこれまで以上に高速な計算環境によるアプローチが可能になってきた。特に多段階VSの場合、その初期段階では計算速度を高めより多数の化合物を検討するアプローチが一般的であったが、そうしたアプローチを再検討し初期段階であっても計算精度をより高めた条件で計算を実行することでこれまで以上のパフォーマンスを得ることが可能か検討することは意義があると考える。さらに、高速計算機を用いてこれまで以上のライブラリーのスケールで計算を実施することや、スコア関数の比較研究によるパフォーマンス向上の検討に取り組むことも今後の重要な課題であると考える。
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Causes of Carryover |
計画当初は初期段階で高速計算機を導入することで大規模なin silico化合物ライブラリーを用いて多段階VS研究手法の検討を行う計画であった。計画実施時には化合物ライブラリーの規模を当初計画よりも縮小することで計算機への負荷を低減し、多段階VS方法の検討を実施した。この検討はのちに大規模ライブラリーを利用する際の予備研究としての位置づけとして実施した。このような予備研究の結果、多段階VSの構築戦略に関する様々な課題があることが判明した。その結果、当初計画にはなかった複数の分子表面を比較する戦略について検討中である。また応用の可能性を模索するためにSARS-CoV-2由来酵素の計算科学的研究を実施中である。見直された新計画において、データ解析及び書類作成等のためのパソコン、ストレージ等を購入した。今後は未使用の予算を利用して高速計算機の導入や酵素学実験を検討する。
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Research Products
(3 results)