2019 Fiscal Year Research-status Report
ADHDを伴う自閉症の小脳シナプス病態の解明とそれに基づく治療法についての検討
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18K07610
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
久岡 朋子 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00398463)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自閉症 / 小脳 / 注意欠如・多動性障害 / シナプス接着分子 / イムノグロブリンスーパーファミリー |
Outline of Annual Research Achievements |
[1]発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスにおいて、小脳バスケット細胞とプルキンエ細胞間(ピンスー)シナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があるかを検討するために、NF200の免疫染色を行った結果、野生型マウスと比べてKirrel3欠損マウスでNF200陽性領域と輝度の有意な増加が認められた。さらに、ビルショウスキー染色を用いてバスケット細胞軸索の分枝形態を検討した結果、Kirrel3欠損マウスで過剰な分枝が見られた。 [2]オープンフィールドテストにおける多動(ADHD)を伴う常同行動(ASD)の亢進により活性化、または抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現するc-fos蛋白を指標として、野生型とKirrel3欠損マウス間で比較した結果、いくつかの領域で異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。 [3] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン伝達系の賦活薬であるメタンフェタミンを腹腔内投与し、オープンフィールドテストによりADHD様行動(多動)が改善するかを検討した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が見られた。この結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASDの病態として、ADHDで報告されているドーパミン伝達系の低下ではなく、ドーパミン伝達系の亢進が関連している可能性が示唆された。 [意義・重要性] ADHDを伴うASD様行動を示すKirrel3欠損マウスの小脳において、ピンスーシナプスの形成に異常が見られ、ADHD治療薬であるドーパミン系賦活薬の投与によりADHD様行動の増悪が見られたことから、この疾患の新たな病態を見いだした。これらの知見から、ADHDを伴うASDと小脳やドーパミン伝達神経回路との関連性をさらに解明することで、ADHD単独の病態とは異なるこの疾患の治療法の開発に役立つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスの小脳神経回路において、ピンスーシナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があることを見いだしており、発達過程のピンスーシナプスの形成異常が小脳プルキンエ細胞の活動電位抑制を障害し、ADHDを伴うASD様行動を惹起している可能性が示唆された。Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン系賦活薬のメタンフェタミンを投与した結果、多動の亢進が見られたことからドーパミン伝達系が亢進している可能性が示唆された。これらの結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASD様行動の病態に、ADHD単独の病態で報告されているドーパミン伝達系の低下とは異なり、ドーパミン伝達系の亢進が関与している可能性が考えられる。今後、大脳基底核系、大脳辺縁系のドーパミン伝達系と小脳シナプス部構造異常との関連性を解明していくという方向性が明らかとなってきており、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
[1] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬(メタンフェタミン)を投与した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が認められた。このことから、ADHDの病態とは異なり、ドーパミン伝達系が亢進している可能性が考えられるため、双極性障害の躁症状治療薬(リチウム)やドーパミン受容体拮抗薬を腹腔内投与し、ADHDを伴うASD様行動異常の改善を検討する。また、活動依存的に発現するc-fosの発現レベルや局在の変化を免疫染色法を用いて検討することにより、ADHDを伴うASD様行動異常の原因となっている脳部位や神経細胞を明らかにする。 [2]発達過程や成獣の野生型、及びKirrel3欠損マウスの前頭前皮質、視床、小脳、中脳、線条体等のセロトニン濃度やドーパミン濃度を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した結果、線条体等に異常を見いだしており、さらに個体数を増やして検討する。 [3]発達過程や成獣におけるKirrel3欠損マウスの大脳基底核系、大脳辺縁系のドーパミン伝達系と小脳シナプス部構造異常との関連性を中心に、ドーパミン代謝酵素(TH)、ドーパミントランスポーター(DAT)、ドーパミン受容体(D1R, D2R, D3R等)やシナプス足場蛋白(PSD95, Veli1/2/3等) の発現レベルや局在の変化の有無を組織学的(免疫染色法)・生化学的(ウェスタンブロット法)・分子生物学的(リアルタイムPCR法)に検討する。また、ドーパミン伝達系の制御に関連するグルタミン酸やGABAのシナプス伝達回路の異常の有無を検討するために、グルタミン酸やGABAのレセプター(NR1, GluR2/3, GABAAR等)やシナプス足場蛋白(VGAT, VGLUT1,VGLU2等)の発現レベルや局在の変化の有無を組織学的・生化学的・分子生物学的に検討する。
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Causes of Carryover |
当該年度に予定していたゴルジ染色は、目的とするバスケット細胞軸索終末の染色像を得ることができず、ビルショウスキー染色で代用したため、ゴルジ染色試薬購入の予定額からビルショウスキー染色試薬購入額を差し引いた金額を次年度に繰り越した。ADHD治療薬(メタンフェタミン)を投与した結果、Kirrel3欠損マウスにおいてドーパミン伝達系の異常が病態に関連する可能性が示唆されたことから、ドーパミン神経回路の解析やドーパミン受容体拮抗薬の投与等を次年度に新たに行う予定であり、これらの資金に使用する。また、来年度中に投稿を予定している論文の校正や論文掲載費用に使用する。
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Research Products
(1 results)