2018 Fiscal Year Research-status Report
マウスB細胞腫瘍モデルを用いたNotchシグナル活性化の意義の解明
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18K08324
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
錦織 桃子 京都大学, 医学研究科, 講師 (60378635)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | B細胞リンパ腫 / 腫瘍微小環境 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
B細胞リンパ腫は国内外で頻度の高い悪性リンパ腫であるが、現在行われている抗がん剤とリツキシマブの併用療法では依然難治性症例が存在し、新規薬剤の導入による治療成績の向上が望まれる。その一方で、遺伝子発現プロファイリングや網羅的遺伝子解析により、B細胞リンパ腫の各病型の特徴や遺伝子異常に関する情報は蓄積されつつあるが、それらをいかに病態理解につなげ、治療応用していくかについては今後の大きな課題となっている。B細胞リンパ腫において、Notch1, 2の活性化を生じる遺伝子異常は様々な病型で認められることが報告されている。我々は、Notch1活性化が一部の成熟B細胞で恒常的に高発現するコンディショナルトランスジェニックマウスを作出し解析した結果、Notch1活性化B細胞は個体内のT細胞をTh2や制御性T細胞優位にすることを示した。またヒトのDLBCLのデータベース解析において、Notch1の活性化プロフィルはCD8+T細胞/Treg細胞比と逆相関することが判明した。本内容は論文にて発表を行った(Blood Advances 2018;2(18):2282-2295)。 こうした研究背景に基づき、ヒトB細胞リンパ腫における腫瘍微小環境およびそれに関わる要因を明らかにすることは、リンパ腫の治療開発の上で極めて重要であると考え、B細胞リンパ腫の腫瘍微小環境を左右する他の要因に関しても検索を行った。その結果、新たにCCL17がB細胞リンパ腫の腫瘍微小環境に関わる要因の一つであることを見出した。ある小分子化合物でB細胞リンパ腫株全般でCCL17の発現が顕著に誘導され、CCL17の発現上昇はT細胞の動員作用を持つことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々はこれまでのマウス研究において、成熟B細胞におけるNotch1の高発現が腫瘍微小環境に深く関わることを明らかにした。Notch1シグナルの活性化を生じる異常はDLBCLの約2割に存在するが、その脱制御の機序から、Notchシグナルを抑制すること自体による治療はやや難しいと判断した。実際に、Notchシグナル阻害薬のB細胞リンパ腫に対する臨床試験が海外で行われているが、多くの場合シグナル阻害薬の作用点よりも下流に遺伝子異常が存在するため、十分な治療効果は認められていない。そこで、B細胞リンパ腫の腫瘍微小環境を標的とした治療を探索する目的で、免疫微小環境を修飾する別の因子を検索することとした。 我々は11種類のB細胞リンパ腫株を用いた検討において、ある小分子化合物がこれら全てのCCL17(TARC)の発現を上昇させることを見出した。CCL17はCCR4陽性T細胞を動員するケモカインであり、悪性リンパ腫ではホジキンリンパ腫のHodgkin/Reed-Sternberg細胞に特徴的に高発現し、T細胞豊富な腫瘍微小環境をもたらすことが知られる。CCR4は制御性T細胞に最も高く発現しているが、CCL17は広範なT細胞の細胞遊走ももたらすことが示唆された。また、ヒトの濾胞性リンパ腫およびDLBCLのデータベース解析では、CCL17の発現レベルは制御性T細胞、CD4陽性T細胞だけでなくCD8陽性T細胞豊富な腫瘍微小環境とも相関することが示された。 当初計画していた内容通りではないが、研究内容の工夫を行い新たな知見が得られており、研究は概ね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
B細胞リンパ腫におけるCCL17の発現制御機構の解明を目指す。CCL17の発現を制御する小分子化合物はエピゲノム修飾薬であり、B細胞リンパ腫細胞株が背景に持つシグナルとの相乗作用がCCL17の発現制御に関わると推測しており、それらの関連性を明らかにする。一方、CCL17の高発現がもたらす治療への影響について明らかにしたいと考えている。CCL17はCCR4陽性制御性T細胞の遊走をもたらすケモカインであるが、必ずしも予後不良因子とはされておらず、悪性黒色腫においてはむしろ予後良好因子として報告されている(Journal of Clinical Immunology 2009;29(5):657–664)。免疫療法を行う上で腫瘍微小環境におけるT細胞の存在が重要であることが知られるが、CCL17がヒトのB細胞リンパ腫のデータベース解析においてT細胞豊富な免疫微小環境と強く相関することが示されたことから、CCL17の発現誘導は免疫療法を効果的に行う上で有用である可能性があると推測している。CCL17が高発現していることが知られるホジキンリンパ腫では、免疫チェックポイント阻害薬の有効性の高い疾患であることから、B細胞リンパ腫におけるCCL17の薬剤による誘導と免疫チェックポイント阻害薬との併用が相乗作用を持つ可能性を推測し、生体モデルにおいて検証を行いたいと考えている。こうした免疫改変作用を持つ薬剤による治療は、免疫異常を呈するNotch1関連リンパ腫などの治療にも応用できるのではないかと期待している。
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Research Products
(9 results)