2018 Fiscal Year Research-status Report
咽頭・喉頭の感覚刺激と嚥下誘発ー誤嚥リスク解明に向けての臨床研究
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18K09389
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
任 智美 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (00599483)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 嚥下誘発 / 咽頭・喉頭の味覚 / 水受容器 / 上喉頭神経 / 咽頭・喉頭の感覚 / 味蕾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はヒトの咽頭・喉頭の感覚と嚥下誘発の関係を明らかにすることである。当該年度では、今まで系統的実験はなされてこなかったヒトの 咽頭・喉頭での知覚を把握するために水と味溶液に対する知覚を舌後方部と比較した。健常成人10人に、外径1 mmのシリコンチューブを口腔から挿入し、水と5基本味溶液を舌後方部と下咽頭部へ0.1 ml注入し(嚥下前を下咽頭部、嚥下後を咽頭部とした)、認知された味と知覚された強さを訊ねた。被験者には[甘味、塩味、酸味、苦味、うま味、不特定、無味]から認知した味を選択、続けて知覚された強さはVAS 0~10で回答してもらった。 水は刺激部位に関わらず、ほぼ無味が選択された。味溶液では舌後方部でどの味も正しく認知されたのに対し、下咽頭部ではほとんど不特定か無味が選択された。咽頭部は知覚された強さが、僅かに下咽頭部より増加し、特に酸刺激では40%が正答した。マウスの咽喉頭ではTRPV1が酸応答の経路に関与する可能性があり、明確に酸味を感じなくとも独特の刺激で酸味を選んだと考えられる。知覚されたVASは水ではどの部位でも低かったが、すべての味溶液において下咽頭部と咽頭部は舌後方部より有意に低かった。 我々は水を飲んでも特別な味を感じないが、ヒトの嚥下実験から、咽頭には水に興奮する神経線維が存在するとされている。本実験では水は咽頭部の感覚神経が興奮しても知覚され難く、また咽頭に呈示された味刺激は、脳で認知され難いことが分かった。味蕾は咽頭部で少なく、自由神経終末も多いことから、刺激溶液は味蕾と自由神経終末の両方が上喉頭神経の化学応答に関与する可能性がある。 食塊が咽頭・喉頭部を通るとき、上喉頭神経は化学感覚情報を中枢に伝える。本実験で咽頭部では味覚は認知され難かったが、感覚情報は嚥下誘発に影響していると思われ、今後はそれらの影響について調査する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「咽頭・喉頭部における味覚認知」の実験で前述の知見が得られたため、健常者を対象とした「基本5味溶液の嚥下機能への影響」の実験を開始した。計画書に準じて外径1 mmのシリコンチューブを口腔から挿入し、そこから基本5味溶液をシリンジポンプを使用して0.2 mL/minで持続注入しながら筋電図にて随意性嚥下を記録し、嚥下間隔時間の測定を行った。しかし、得られた結果を参考に考察を重ねていく中で、「随意性嚥下は大脳皮質からの上位中枢入力が延髄の嚥下中枢を賦活するため、咽頭や喉頭粘膜の受容器において純粋な化学刺激に対する反応をみるには、まずは反射性嚥下を評価するほうがより適切ではないか。その知見が得られてから感覚刺激による中枢の嚥下能力の補償能力、すなわち味溶液による随意性嚥下への影響について検討することが望ましいのではないか。」と考えた。その後、反射性嚥下を評価する方法を過去の報告を参考に繰り返し試行し、手法や評価法について再考したため、時間を要した。また実験を行う中で、後述するように酸味溶液に注目するようになったが、酸の濃度調整、またpH調整を行う研究環境が整っていなかったため、他部署に依頼するなどの時間も要することになった。さらに当初予定していた健常の被験者の都合が人事異動などで大幅に変更、また実験時間が予想したより長時間となったことにより、被験者のリクルートを再度行うこととなったため、現段階で予定より遅れている状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
咽頭・喉頭における味刺激は舌後方部より味として認識されないと結論が出たことにより、計画通り、次は健常人に対して味溶液の嚥下機能における影響を調査し、傾向が把握できれば味覚障害患者を対象に研究を進めていく予定である。上記のとおり、今後は嚥下機能の評価法を変更して反射性嚥下を評価する予定であるが、反射性嚥下時間を測定するうえで個体間や個体の中にばらつきがみられることは考慮されるべき現象である。そのばらつきを考慮した上で、基本味溶液をすべて実験することは時間を要し、実験回数も多くなる。反射をみる実験であるため咽喉頭が新鮮な状態であることが好ましく、実験回数を少なくすること、すなわち味質を限定することが必要と考えている。 動物実験においては喉頭蓋喉頭面を酸刺激することによって嚥下が促進されたと報告され、酸味は嚥下促進に働くという見解があるが、我々の予備実験において明らかな酸刺激の嚥下促進作用を確認することができなかった。ヒトにおいては、酸味は本来有害、腐敗の物質と認識される味質であり、その視点からも酸は嚥下促進として働いていない可能性も考えられる。今後の研究内容として5基本味のうち、主として酸味に焦点をあて、異なる種類の酸を使用して酸味の嚥下機能における影響を検討する。その際に過去の報告でヒトにおいて嚥下機能への影響が明らかとなっている水や0.3M NaCl溶液と比較して実験を行う。酸では唾液分泌が他の味溶液より促進されることが報告されており唾液量を考慮する必要があるため、酸味の下咽頭呈示時における唾液量を測定し、考察を行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究が遅れたため、人件費・謝金・旅費が使用できなかった。今後、研究を遂行、発表、論文化するにあたりこれらの助成金を使用予定である。
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Research Products
(2 results)