2019 Fiscal Year Research-status Report
剣道7段が8段の動きを全く探知できない事象の理論的解明に関する研究
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18K10978
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
村田 俊也 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (80270255)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋爪 和夫 富山大学, 学術研究部教育学系, 教授 (80189472)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 剣道 / 八段昇段試験 / 自己点検 / 学習性無力感 / 武道 / 情報収集 / 情報処理 / 剣道の教え |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、剣道7段はなぜ8段の動きの情報を全く入手(入力)できないのかという事象を解明することである。仮説として「7段は8段との稽古において、自己の学習課題に専心しているために相手の情報を入手していないか、または、情報収集技能を抑制している。」という仮説を立てた。本年度はこの仮説の妥当性を確認するために日本武道学会で報告し、一定の理解を得ることができた。発表は初年度の研究成果を収集した資料を基にして以下のように報告した。 【研究方法と結果】1.対象者は、剣道7段(57歳, 181cm, 98kg)であった。2.対象者が2018年度に行った稽古で主に8段から教示された総数53項目の内容を①生理学1②運動学35③心理学2④戦術4⑤剣道学11の5つの観点で主観的に分類した。3.教示項目について、達成動機からみて可能30・やや困難21・困難2の3水準に主観的に分類した。4.対象者は稽古内容を録画記録し、教示項目の省察をしながら達成可能水準を判断した。 【考察】1.7段が学習課題で体力の向上が求められる生理学的項目は少なかった。このことは、7段と8段は体力因子以外の要素で剣道の技能差が生じていると考えられる。2.指導・教示の内容は全てが学習(宿題)課題であり、対象者の技能を高く評価する(ほめる)観点の項目はない。このことは、自己肯定感や自尊心に関連する内容は別のこととして検討しなければならず、学習性無力感の有無は他の視点から考察しなければならない。3.部分学習を意識した8段との稽古は気剣体の一致した技を求める剣道の視点からみても課題である。 【結論】1.7段は同位者に5割、下位者にほぼ完ぺきに発揮している情報収集能力を8段に対して活用できておらず、自分の自己点検に専心している可能性がある。2.8段は7段の技能を封じているというよりは、7段が8段の情報を入力していない可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は予備実験まで行う予定であった。しかしながら、研究仮説の信頼性と妥当性を日本武道学会で確認することを優先することにした。それは、剣道7段位者は8段位者との練習において、6段位以下の下位者に対して発揮している技能の高さを全く活用できないという理論の成立が単に技能の問題であるという単純なものでないと考えられたからである。7段位の剣道家が8段位の剣道家に対する技能の発揮の仕方は、下位者である6段位以下の剣道家との対戦とは全く違うことがわかったことにも起因している。すなわち7段位剣道家は6段位剣道家に対しては全体的(ゲシュタルト)な動きが行われることができる(剣道の教えにある「無心の境地」)のに、上位者8段の剣道家に対しては、8段位者から教示・指導を受けた内容を自己点検している可能性があり、下位者との剣道にあるゲシュタルト的(無意識的)な剣道すなわち、気剣体の一致した剣道が実践されていない可能性が示唆されたためである。別の言い方をすれば、7段位剣道家は下位者との稽古においては、何らの学習課題も意識しないで、相手の情報を収集することに集中して稽古ができている。一方で、7段位剣道家は上位者であり自己に多様な教示・学習課題を与えてくれた8段位剣道家との稽古においては、課題達成のための自己点検に集中しており相手(8段位)の動きの情報の収集量が少ないことが考えられた。 本研究の当初の仮説のひとつに、7段位剣道家は8段位剣道家に対して遠慮などの自己抑制をしている可能性があるという仮説も設定していたが、他者との関係性というよりも、自己内での問題解決に専心している可能性の方が課題であるという問題が提起されてきた。これらの新しい仮説を検証するためには、新たな検証モデルを構築する必要が生じた。日本武道学会はこのような仮説や検証モデルを討議する研究発表の場として必要であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の申請時の内容に大きな変更はない。研究仮説の検証のための実験室実験(動作分析)と実証実験(稽古による質的研究)を進める予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者が本年度の東京での学会発表に公務により出張できなかったこと、計画していた実験ができなかったために、計上していた被験者の旅費や謝金の支払いがなかったことが主な理由である。次年度は学会発表および実験の経費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)