2018 Fiscal Year Research-status Report
福島第一原発事故後の新安全目標-過去・現在の分析と将来の望ましい目標-
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18K11762
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
勝田 忠広 明治大学, 法学部, 専任教授 (80552463)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 原子力 / 政策 / 安全目標 / 福島事故 / 環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は大きく二つの研究を行った。 1) まず日本の安全目標の概要と課題を明らかにし、将来の原子力発電利用のあり方について調査を行った結果、以下の成果が得られた。i. 現行の安全目標は福島事故の実績から求められているが、その意思決定プロセスは不明瞭で、またそれが十分であるか分析は行われていない。ii.リスクと交換関係にあるはずの原子力発電の価値は不在で、かつ社会的価値観の向上により、単純な原子力利用ありきの安全目標の存在は困難となっている。iii. そのためにも対話は重要だが、その動きは原子力規制委員会や事業者にはみられない。 2) 続いて福島事故対応の現状と課題を調査した。「安全性」を議論する上では、実際的な政府の対応能力の有無が国民にとっては重要な指標となる。その結果、以下の成果が得られた。i. 福島県の避難区域から解除された富岡町での放射能現地測定の結果、いまだ住民が懸念する程度の多くのセシウムが除染終了場所から検出されることが明らかとなった。ii.文献調査等から、3号内の使用済み燃料取り出し等がはじまった一方で作業者2名のがんが福島事故の作業が原因であると認定され、また2年ぶりに避難区域の一部がまた解除されたが解除区域に帰還する住民は少ないなど、国民の政府に対する不信感をあおるような状況が続いていることが明らかとなった。 3) 福島事故後の安全性向上の取り組みの一つである新検査制度について調査を行った。i. 有識者として原子力規制庁の会議に参加し、規制の取り組みについて意見を述べると同時に、規制者や非規制者の現状の取り組みや課題について整理を行った。ii. 九州電力川内原発の新検査制度の取り組み状況を視察し、その現状と課題について調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
安全目標に関する日本の政策の分析については、すでに雑誌「科学」(2018年11月号、岩波書店)において掲載された。また当研究費によって購入した測定器によって現地調査の結果、セシウムを多く含む地域がいまだ避難区域解除区域から検出される事実が得られた。また福島事故の廃炉対策の現状と課題、および国民感情との関係については、世界の原子力発電の動向をまとめる海外研究者グループとの連携により、報告書"World Nuclear Industry Status Report -The Independent Assessment of Nuclear Developments in the World"の2019年版に掲載される予定となった。また原子力規制委員会の協力の下、九州電力川内原発の新検査制度の取り組みの現地調査を行うことが出来、その安全性についての規制者と非規制者についての実務的な課題を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究をさらに進める。望ましい安全目標のあり方を求めるため次の3つを行う:1) 現地の測定調査を続け、環境省等からのデータではなく実際の住民の生活の目線での測定を続け、網羅的な結果を出すと同時に、事故後の修復作業の困難さや、原子力を扱う「資格」が政府にあるかどうかを見極めるための一つの指標となり得るような整理を行う。2) 初年度に示した安全目標についての新しいアイデアをさら発展させ、国内ではあまり議論されていない命の値段と費用便益分析(CBA)、さらには功利主義(ジェレミ・ベンサム)の視点を組み込み、望ましい安全目標のあり方を求めるための一つの指標となりえるか調査・分析を行う。3)また新検査制度については本格施行を迎える次年度までにまた視察を行い、安全目標に対する非事業者のあり方など実務的な現状やその課題について整理を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては旅費の変更があげられる。まず効果の高い海外調査を行うため、海外調査の前により十分な国内調査、特に測定調査が必要になったと判断し、予定していた海外調査を次年度に延期したこと、そして東京電力福島第一原子力発電所と九州電力川内原子力発電所への調査について原子力規制庁の取り組みとして参加出来たため、国内旅費が不必要になったことがあげられる。 使用計画については、初年度の成果を活用し、詳細かつ取材範囲を広げた海外調査を行うこと、そして福島県内のより日数と範囲を広げた本格的な測定調査と取材調査を行うことを予定している。
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Research Products
(1 results)