2019 Fiscal Year Research-status Report
Needs for Persons with Disabilities to live in rural Karen-Study on Conflict and Disabality
Project/Area Number |
18K11784
|
Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
河野 眞 国際医療福祉大学, 成田保健医療学部, 教授 (70364651)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 地域に根ざしたリハビリテーション / 難民 / 障害者 / 地域開発 / ミャンマー / カレン / 地域研究 / 紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はポスト紛争期にあるミャンマー・カレン州の農村部に暮らす障害者とその家族を対象とし、以下の2つを目的としている。一つは「その生活実態と生活ニーズを明らかにすること」であり、もう一つは「その支援について必要な内容と効果的な方法を検討すること」である。 以上の目的を達成するため、本研究では混合研究法を取り、次の2つの調査を実施した。つまり、「カレン州内の3村723世帯の全戸訪問調査による障害者の生活実態に関する量的データの収集」及び「対象地域在住の障害者とその家族10名への半構造化面接による質的データの収集」である。 現在までのところ、量的データ収集の結果として、「非障害者と比較して障害者では教育・職業面で社会参加の制限が顕著である」「一方、障害者は宗教資源や難民キャンプ資源など代替的資源の活用によって社会生活上の制限の軽減を図っている」「その上でなお、障害男性に比して障害女性で社会参加の制限が顕著だが、当の障害女性自身はその自覚が薄い」などの生活実態が明らかになった。また、質的データ収集の結果として、「生活上のセイフティネットとしての叔父叔母・甥姪」「生計資源としてのタイ」「近隣住民との両価的関係」「多面的・重層的な支援資源としての宗教」などがカレン州農村部の障害者の生活実態を語る上でのキーワードとして抽出された。 これらの生活実態に関する調査の結果から、今後の必要な支援の方向性として「障害女性のための取り組み」「近隣住民への働きかけ」「宗教資源との連携」「多彩な選択肢の維持」などが考察されているところである。 本研究による成果は、研究協力団体との共有により現地での支援活動に直接活用するだけでなく、24th Rehabilitation International World Congressなどの国際学会において関連領域関係者に広く共有される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で2018年度及び2019年度に計画していた研究活動はすべて遅滞なく順調に進行している。 具体的には、量的データ収集としてカレン州内の3村723世帯の全戸訪問調査の結果データを研究協力団体の協力によって入手し分析することが出来た。また、質的データ収集としては対象地域内の10名の障害者及びその家族に半構造化面接を実施し、その結果を分析することが出来た。本研究計画の最終年度である2020年度は、研究協力団体と共に、これらの調査結果に関する分析を深め、対象地域で実施されるべき障害者支援の具体的内容と方法を検討することが予定されている。 研究成果の発表という点では、2019年の1年間で以下の機会を得た。①2019年3月、一般社団法人Bridges in Public Health主催講演会での発表、②2019年6月、国際リハビリテーション研究会主催セミナーでの発表、③2019年7月にモンゴルで開催された4th Asia-Pacific Community-Based Inclusive Development Congressでの口述発表、④2019年9月、第53回日本作業療法学会福岡大会での口述発表、などである。また、2021年9月にデンマークで開催される24th Rehabilitation International World Congressの演題として既に採択されている他、現在結果待ちの学会演題が複数控えている状態である。 研究計画の最終年度である2020年度は、関連分野の国際的な学術誌に論文投稿を行う予定で準備を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年前半から世界中で猛威を振るっている新型コロナ肺炎による悪影響は本研究も被ることとなった。ただ、不幸中の幸いとして、その影響は成果発表の場と予定していた学会のいくつかが開催延期となった程度にとどまっており、ミャンマー現地での調査活動は流行が世界的に拡大する前に完了することが出来た。 本研究の今後の推進方策として、まずは、「難民障害者の生活実態と支援」や「東南アジア地域における社会福祉アクターとしての宗教資源」といったテーマで、関係する他の研究者たちとのシンポジウム開催を計画中である。 合わせて、今回の結果を踏まえた次の段階の研究として、次のようなテーマに取り組み始めている。 一つは、他地域・他文脈下での難民障害者の生活実態を把握し、今回知見を得たミャンマー・カレン州の難民障害者の実態と比較することである。これによって、世界的に難民の発生が拡大する現代において、その中でも特に脆弱とされる難民障害者の総合的・包括的な理解と支援の検討が可能となる。この点では、既にトルコのシリア難民やウガンダの南スーダン難民についてパイロット的な現地調査を開始したところである。 もう一つは、アジア地域の社会福祉セクターにおける宗教者・宗教組織の役割を把握することである。アジア各地のさまざまな文化的・社会的文脈において、宗教者・宗教組織が実際にどのような役割を担っているかを知ることで、現代社会における宗教の意義や実際的活用を検討できると考えている。そしてこの点では、ミャンマーの僧院教育やタイの寺院による高齢者介護に関するパイロット調査を開始した。 以上、今回の研究による成果が、「難民障害者の研究」や「社会福祉セクターにおけるオルタナティブな資源としての宗教の活用」といった、より大きな研究テーマへの端緒になろうとしている。
|
Causes of Carryover |
まず、次年度使用額が生じた理由は以下の①と②の通りである。①当初計画で参加予定だった国内学会について、参加予定2学会に対して参加実績1学会であり、かつその学会参加費についても別の研究費から負担した。このため、国内学会参加に関する経費がゼロとなった。(※国際学会への参加は前年度繰越金で賄った計算となる)②当初計画では現地調査にかかる通訳謝金のため人件費を計上していたが、研究協力団体の協力によってこの部分の経費が不要となった。以上である。 次に、今後の使用計画は以下の通りである。成果発表のための学会参加について、当初計画では最終年度に、国内学会2つ・国際学会1つの計3学会に参加予定であったが、これを国内学会2つ・国際学会2つの計4学会へと変更する。このうち、追加する国際学会1回分の経費に次年度使用額を当てる。参加学会を増やす理由としては、本研究を通して順調に多くの成果を上げることが出来たこと、及び、関係分野では重要性の高い、4年に1度開催の国際学会が今年度複数予定されていることが挙げられる。 データ収集・分析と順調に進んでいる本研究であるので、研究最終年度は可能な限り学会発表の機会を多く持つとともに、着実に論文執筆・投稿を進め、成果の共有に努めるものとする。
|
Research Products
(5 results)