2018 Fiscal Year Research-status Report
Biomechanical evaluation of the nuchal and yellow ligaments considering elastin components and development of a new treatment for the ossification of vertebral ligaments
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18K12046
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
山本 衛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (00309270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / エラスチン / 腱 / 靭帯 / 力学的特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
コラーゲンとエラスチンは,生体組織中に存在する代表的な線維性タンパク質である.従って,皮膚,血管,腱,靭帯などの軟組織の力学的特性も,コラーゲンとエラスチンの双方の組成や構造に強く依存する.コラーゲンは生体適合性,生分解性,免疫原性,細胞接着性などの性質において多くの利点を有する材料であり,組織工学や再生医療の分野でも非常に多く利用されている.更に純度の高いコラーゲンを容易かつ大量に精製する手法が確立されており,多くの動物の組織から生体由来のコラーゲン材料が作製されている.一方,不溶性タンパク質であるエラスチンを大量にかつ高純度で精製することは極めて困難である.このことに起因して,エラスチンを対象とした研究はコラーゲンと比べて著しく遅れているのが現状である.加えて,エラスチンの生化学的ならびに分子生物学的な基礎特性についても未解明な部分が多く残されており,医薬品や化粧品や再生医療の分野への応用も少ないのが現状である.そこで本研究では,魚類動脈球からのエラスチン成分を精製し,腱や靭帯などの生体軟組織を対象とした再生医療や組織工学分野への展開を視野に入れ,エラスチンで構成されたプレート状材料の作製を試みた.また,作製したエラスチン材料にインデンテーション試験を行うことで,材料のヤング率を測定した.これによって,材料を作製する際のエラスチン濃度と材料強度との関係が明らかになったことで,腱や靭帯の力学的特性を模倣する材料を作製できる可能性が示唆された.さらに,腱や靭帯中に存在する線維芽細胞を用いた培養実験において,エラスチン基材上での細胞増殖を確認することができた.これによって,本研究で作製したエラスチン材料が良好な生体適合性や細胞親和性を有することが示され,線維芽細胞を含有する腱や靭帯の再生用材料として利用できるのではないかと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
腱や靭帯などの生体軟組織はコラーゲンだけでなく,エラスチン成分も多く含有しており,これらの組織における細胞機能や組織再生を検討していくためには,エラスチン材料を有効に利用するほうが合理的であると推察される.本研究では,エラスチン材料を用いて,腱や靭帯における損傷治癒や組織再生の促進効果を有する材料を開発していくことを最終目標としている.しかし,魚類動脈球由来エラスチン材料の生体適合性についての検討は行われていなかった.そこで,エラスチンを被覆した培養シャーレを作製し,これを用いて腱や靭帯中に存在する線維芽細胞の培養実験を行い,腱や靭帯における細胞外マトリックスとしてエラスチン材料が利用可能かどうかについて検討した.エラスチン溶液をポリスチレン製培養シャーレに注入した後,乾燥オーブン中に静置することで,培養容器の表面にエラスチン膜を被覆させた.作製したエラスチン被覆シャーレに,線維芽細胞を播種し,細胞形態の変化を観察した.その結果,多くの線維芽細胞がポリスチレン表面よりもエラスチン成分が被覆されている部分に接着している様子がみられた.従って,魚類由来のエラスチンをコートしたシャーレで線維芽細胞を培養することが可能であり,精製したエラスチンと線維芽細胞との接着性も良好であることが明らかになった.また,エラスチンを素材として作製したプレート状材料のヤング率を測定した結果,エラスチン含有濃度とヤング率の間には正の相関があることが確認された.このように,本研究で精製したエラスチンは,線維芽細胞との親和性が良好であるとともに,エラスチンを用いたプレート材料ではエラスチン含有率や架橋剤濃度を変更することでヤング率を調整できることが示されており,腱や靭帯の治癒促進や組織再生に有効な材料がエラスチンを用いて開発できるものと推察され,研究はほぼ順調に進んでいると判断される.
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Strategy for Future Research Activity |
魚類由来エラスチンを用いて作製したプレート状材料に対してインデンテーション試験を実施し,そのヤング率を計測した結果,エラスチン含有濃度とヤング率の間に正の相関が存在することが明らかになった.しかしながら,そのヤング率の値は腱や靭帯のものと比較して低値を示していた.黄色靭帯や項靭帯には,エラスチン成分だけでなくコラーゲン成分も含まれており,両成分がネットワーク構造を形成し,相互に作用し合うことによって,靭帯の力学的特性が決定されていると推察される.今後は,エラスチン成分とコラーゲン成分を混合させたハイブリッド材料の作製を行っていく予定である.このエラスチンとコラーゲンの複合化によって,より腱や靭帯に近い特性をもつ材料を作製できるのではないかと考えている.一方,エラスチン被覆シャーレを用いた培養実験では,細胞の増殖能だけではなく,細胞の遊走性評価や遺伝子発現解析を実施していくことを検討中である.これによって,生体内において腱や靭帯の組織再生や損傷治癒を促進させるエラスチン材料の作用機序を理解するために必要な基礎的知見を得ることができるものと推察される.さらに,エラスチン成分を含んだ材料を用いて,項靭帯および黄色靭帯に人為的に作成した損傷の修復を試みる予定である.一定期間,エラスチン材料を靭帯損傷部に埋入した後に組織を摘出し,引張試験や吸引負荷試験などの生体力学的検討およびエラスチン線維の形態観察などの組織形態学的検討を行うものとし,これらによって,未だ定量的には解明されていない靭帯修復機能におけるエラスチン成分の役割や力学的寄与度についてのデータを得るものとする.さらに,組織伸展性が低下する靭帯の疾患では,エラスチンの性状変化が病状を左右する重要な因子であると考えられ,エラスチン含有のバイオマテリアルを用いた治療法やアンチエイジング手法を新たに提案していく予定である.
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Causes of Carryover |
本年度の実験は順調に行われており,これまでは精製手法のプレート材料作製の再現性を確認するためにやや多く労力を使ってきた.特に,魚類由来エラスチンを利用した腱や靭帯の再生用材料を作製するための予備実験に多くの時間を費やした.従って,エラスチンの埋入実験に不可欠である実験動物の購入費用が当初の計画よりも少なくなったことで,次年度使用額が生じた.しかしながら,精製方法を確立することや実験データの再現性を検証することは,研究を遂行していくうえで極めて重要な過程である.次年度においては,より正確なデータ取得しながら,多くの実験を行うことが可能な状況になっており,残額となった研究費を有効に活用していく予定である.
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