2019 Fiscal Year Research-status Report
Biomechanical evaluation of the nuchal and yellow ligaments considering elastin components and development of a new treatment for the ossification of vertebral ligaments
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18K12046
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
山本 衛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (00309270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | バイオメカニクス / エラスチン / 腱 / 靭帯 / 力学的特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
腱や靱帯の力学的特性はコラーゲンとエラスチンの双方の組成や構造に依存すると考えられる.エラスチンは高純度で精製することが難しく,これに起因してエラスチンを対象とした研究はコラーゲンの場合と比べて遅れており,バイオメディカル分野への応用も今後の課題であると認識されている.本研究では,エラスチン材料を用いた腱や靭帯の再建方法の開発を最終目的として,酵素処理を行った黄色靭帯を対象とした力学試験を実施することで,エラスチンが靭帯において果たしている力学的機能についての知見を得ることを試みた.12週例SDラット(雄,442 ± 15 g)から第12胸椎(T12)から第5胸椎(L5)の脊椎を摘出した.その後,T12-L1間,L2-L3間,L4-L5間に存在する黄色靭帯を含む試験片を計15本作製した.これらの試験片をElastase処理群(n = 7)とControl群(n = 8)に分けた.Elastase群の試験片は,37℃に維持した濃度5%エラスターゼ溶液中に2時間浸漬させた.力学試験では,黄色靭帯の両側に存在する椎骨を把持することで試験片を万能材料試験機に設置し,引張速度1 mm/minで試験片が破断するまで負荷を作用させた.Control群の黄色靭帯の破断荷重は12.6 ± 5.2 Nであった.これに対して,Elastase群の破断荷重は4.5 ± 2.4 Nであり,Control群の35%にまで低下した.黄色靭帯は,その乾燥重量の70~80%がエラスチンで構成されており,エラスチンを非常に多く含む組織である.よって,エラスターゼを用いた酵素処理によって破断荷重が著しく低下したものと推察された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
腱や靱帯の力学的特性はコラーゲンとエラスチンの双方の組成や構造に依存すると考えられるが,エラスチンとコラーゲンの力学的相互作用などの基本的知見は不足しており,腱や靭帯の力学的特性におけるエラスチン成分の力学的寄与についても不明な点が多い.そこで本研究では,酵素処理を行った黄色靭帯を対象とした力学試験を実施することで,エラスチンが靭帯において果たしている力学的機能についての知見を得ることを試みてきた.これまでの実験から,酵素処理によってエラスチン成分を分解することで,黄色靭帯の力学的特性にどのような変化が生じるのか定量的に評価することができている.まず,正常な黄色靭帯組織のデータ取得のためにウィスターラット(雄、5匹、12週間齢、442±15g)と日本白色家兎(雌、5匹、6ヶ月齢、3.6±0.2㎏)を用いた実験を行った.摘出した黄色靭帯から力学的特性を調べるのに適した形状の試験片に成形した後,何も処理を施さないControl群と,エラスターゼ溶液(0.2unit/ml)に2時間浸漬したエラスターゼ群の実験群を設定した.ラットの黄色靭帯(胸椎T12-腰椎L1間,L2-L3間,L4-L5間)を室温大気中で変形量0.5 mm,引張速度10 mm/secを10回繰り返すプリロードを行った後,10 mm/secで引張荷重試験を行い,変形量と力を測定した.また,家兎の黄色靭帯(胸椎T12-腰椎L1間)では37℃に加温した生理食塩水中でラット黄色靭帯と同様に引張試験を行った.その結果,ラット黄色靭帯のエラスターゼ群の破断荷重はControl群の35%にまで低下した.また同様の低下傾向は,家兎黄色靭帯の破断応力についても認められた.このように,黄色靭帯におけるエラスチン成分の力学的寄与に関する定量的データが得られており,研究はほぼ順調に進んでいると判断される.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験から,通常状態の黄色靭帯の力学的特性と,その特性にどの程度の割合でエラスチン成分が寄与しているのかについて,定量的に評価することができている.黄色靭帯は,その乾燥重量の70~80%がエラスチンで構成されており,エラスチンを非常に多く含む組織である.本研究では,エラスチンを利用したバイオマテリアルの開発を最終目標として,黄色靭帯硬化症に対する治療への応用など,腱や靭帯の疾患や損傷に対してエラスチンを利用した新しい治療法を提案していきたいと考えている.そこで,まず靭帯組織の力学的特性を模倣したエラスチン含有材料を作製する予定である.エラスチン含有材料を作製するために,魚類動脈球より精製したβ-エラスチンを用いジメチルスルホキシドに,種々の濃度で溶解する.その後,溶液をガラスシャーレに注ぎ,架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネートなどを使用予定)を所定の体積比になるように加え,溶液と架橋剤が均一になるように撹拌を行った後,オーブンに24時間以上静置する.作製したエラスチン含有材料はダンベル状に切り取り,試験片の厚みをレーザ変位計で測定する.その後,生体内と類似の環境を再現するために,37℃に加温した生理食塩水中で引張破断試験を行い,応力およびひずみを算出する予定である.これらによって,黄色靭帯と類似した力学的特性を有するエラスチン含有材料の作製を行っていくとともに,損傷治癒過程にある靭帯組織をエラスチン材料によって修復する実験を実施することで,未だ定量的には解明されていない靭帯修復機能におけるエラスチン成分の役割や力学的寄与度についてのデータを得るものとする.さらに,組織伸展性が低下する靭帯の疾患では,エラスチンの性状変化が病状を左右する重要な因子であると考えられ,エラスチン含有のバイオマテリアルを用いた治療法やアンチエイジング手法を新たに提案していく予定である.
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Causes of Carryover |
本年度の実験は順調に行われており,これまではエラスチン材料の目標する特性を明確にするために,生体の黄色靭帯の力学的特性を定量化するためにやや多く労力を使ってきた.特に,荷重や変位に基づく構造特性ではなく,応力やひずみを測定することで得られる靭帯の材料特性を求めるために手法の確立に多くの時間を費やした.従って,エラスチン材料の作製や,それを用いた埋入実験に不可欠である実験動物の購入費用が当初の計画よりも少なくなったことで,次年度使用額が生じた.しかしながら,エラスチン材料の目標となる生体靭帯の特性を正確に把握することは,今後の研究の方針を決定していくうえで極めて重要な過程である.次年度においては,より正確なデータ取得しながら,多くの実験を行うことが可能な状況になっており,残額となった研究費を有効に活用していく予定である.
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Research Products
(2 results)