2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12227
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
小泉 順也 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (50613858)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナビ派 / フランス近代美術 / コレクション / 美術制度 / 美術館 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は日本語の紀要論文1本を発表し、フランス語による2つの研究発表(招待講演1つを含む)を行った。国内の調査として、6月29日に新潟県立近代美術館でナビ派に関連する作品調査を実施した。海外の現地調査として、2018年8月30日から9月12日にかけてフランスのパリ、アラブ首長国連邦のアブダビに滞在した。パリではオルセー美術館図書室・資料室、国立公文書館、国立図書館などで資料調査を行い、アブダビではルーヴル・アブダビで開催された「日本の親和性:近代の装飾に向かって」と題した展覧会を見学した。 パリの調査の成果は、「オルセー美術館におけるナビ派のコレクション:作品の収蔵数の変遷と最近の動向」と題した論文にまとめ、一橋大学大学教育研究開発センターが刊行する紀要雑誌『人文・自然研究』(13号、71-86頁、2019年3月、71~86頁)に発表した。そこでは、現在のオルセー美術館に繋がるナビ派の作品収蔵の歴史をまとめ、近年のオルセー美術館の動向を分析し、同館におけるナビ派の重要性の高まりを指摘した。 2018年9月21日、東京大学大学院総合文化研究科比較文学比較文化コースが主催し、東京大学駒場キャンパスで開催された国際ワークショップ「フランス美術コレクションの形成・普及と国際化(1870-1950年)」において、「コレクションを通した日本におけるポール・ゴーガンの評価」と題したフランス語の招待講演を行った。2018年9月26日から国立新美術館で開幕した「ピエール・ボナール展」にあわせて、直前の9月23日、日仏美術学会が主催する国際セミナー「ピエール・ボナールの多面性」が開催された。そのセミナーにおいて、「フランスと日本の美術館におけるピエール・ボナールの受容」と題したフランス語の研究発表を行い、日本とフランスの美術館におけるボナールの作品収蔵を通して、彼の受容史を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オルセー美術館を中心とする海外調査を通して、ナビ派に関連する大規模な寄贈が相次ぐ近年の動向を把握することができた。同館には素描や写真を除いて、2018年の時点で500点弱のナビ派の作品が所蔵されていることが判明した。調査対象をフランス各地の公立美術館に広げていく一つの基盤ができたと考えている。 招待講演「コレクションを通した日本におけるポール・ゴーガンの評価」、ならびに研究発表「日本の美術館におけるピエール・ボナールの受容」と題した2つの発表を同時期に実施したことで、ナビ派の誕生を促したポール・ゴーガン、ナビ派を代表する画家ピエール・ボナールの両者を、コレクションや美術館という枠組みから考察できた。日本とフランスの美術館という軸を設定しながら、より広い文脈のなかでナビ派の受容を捉え直す契機となった。 これらのフランス語による2つの発表は、フランスの美術館との人的なネットワークを築くとともに、これまでの関係を強いものにする大事な機会となった。とくに日仏会館で開催された後者の国際セミナーには、オルセー美術館絵画部門統括学芸員のイザベル・カーン、南仏のル・カネに2011年に開館したピエール・ボナール美術館館長のヴェロニク・セラノが参加しており、今後の研究の進展につながるものと考えられる。 2018年度は新潟県立近代美術館で収蔵庫も含めた作品調査を実施した。所蔵品目録に作品情報は掲載されているが、スケール感、修復状況などは図版を見ても判然としない。実際に作品を見る重要性とともに、関連する国内の美術館を対象とした継続的調査の必要性を再確認した。 以上の理由から、2018年度の研究の進捗状況として「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ナビ派は十数人の芸術家が関わった集団的な運動であり、関連する作品は膨大になる。オルセー美術館だけでなく、各地の収蔵状況の確認も実施するが、2019年度は個別研究を進めるかたちで海外調査を実施する。当初の計画にあったパリのリュクサンブール美術館における20世紀前半の状況を調べるとともに、ブルターニュのレンヌ美術館を調査対象に加えたいと考えている。数年前に国立美術館連合のアーカイヴが、ルーヴル美術館内から国立公文書館に移管されたことに伴い、資料の所蔵状況を改めて確認する必要がある。海外調査の時期は11月末から12月初め頃を予定しており、ロンドンのナショナル・ギャラリーで開催される展覧会「ゴーガン、肖像画」の見学も現地調査の行程に含める。 国内の美術館におけるナビ派に関連する作品の所蔵状況の調査を継続する。しかし、作品情報をきちんと公開していない美術館も多く、その把握にはもう少し時間を要する可能性が高い。2019年度は大原美術館で4日程度の調査を予定している。 2019年6月30日に日仏美術学会が主催するシンポジウム「ナビ派の現在:近年の研究動向と展覧会の回顧」(仮題)を開催することが決定した。2018年9月23日に日仏美術学会が主催した国際セミナー「ピエール・ボナールの多面性」に参加した若手の研究者3人が再び集まり、私はルーヴル・アブダビで開かれたナビ派に関連する展覧会をテーマとした基調講演を行う予定である。 2019年度後半に「展覧会から読み解くナビ派の現状」(仮題)と題したワークショップを一橋大学で開催する。あわせて、2018年度、2019年度の研究成果を反映させた論考を一橋大学の紀要雑誌に発表する計画である。
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Causes of Carryover |
図書購入に関して、一部で平成30年度内の納品が難しいものがあり、発注を見送った。次年度使用額の26,598円については、平成31年度助成金とあわせて図書購入のための物品費として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)