2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K12279
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
栗本 賀世子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (80779661)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 入内 / 参院 / 皇妃 / 後宮 / うつほ物語 / 源氏物語 / 紅梅巻 / 竹河巻 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の実績としては、慶應義塾大学国文学研究会での口頭発表「物語の入内・参院決定の論理―『うつほ物語』あて宮から『源氏物語』玉鬘大君へ―」が挙げられる。『源氏物語』竹河巻では、玉鬘の娘、大君が冷泉院の後宮に入るのだが、結婚の前には、母の玉鬘が、自身の姉妹で有力な冷泉院の皇妃である弘徽殿女御から、娘の参院について了承を得たことが記されていた。この皇妃が後宮入りする前に有力な皇妃の内諾を得るという行為は、『源氏物語』以前に成立した『うつほ物語』にも見られるものである。ヒロインあて宮が東宮に入内する際、あて宮の母大宮が、自身の妹で東宮妃となっていた小宮の存在を懸念し、事前に小宮を後見する嵯峨院大后(小宮・大宮の母)に働きかけてあて宮入内の承認を得ていたのである。しかしながら、後に小宮は入内を認めたはずのあて宮に嫉妬し、敵対することになるのであり、この展開も『源氏物語』の竹河巻で弘徽殿女御に大君が迫害されるという筋に合致する。『源氏物語』竹河巻の大君の物語が『うつほ物語』に学んで描かれていることを考察した。 この他、第31回源氏物語アカデミーでの講義「源氏物語の入内断念―続編世界を中心に―」がある。『源氏物語』続編では、源氏一族出身の有力な皇妃(光源氏の子孫)に憚って他家が入内を断念させる例が集中すること、そのことから、正編で権力者光源氏が娘を入内させているにも関わらず他家にも入内を推奨したような状況が続編ではありえない――続編には他家に手を差し伸べる光源氏のような理想的な政治家が存在しないことが浮彫りにされることを明らかにした。その一方、入内が断念された姫君の婿候補として、物語の価値観に基づき、薫と匂宮という正編の理想的主人公光源氏を想起させる人物があえて選ばれることについても論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、『源氏物語』竹河巻に見える参院前に他の皇妃の承諾を得るという事例について、『うつほ物語』との関わりから論じ、発表することができた。これに加えて、『源氏物語』の入内断念についても、扱えたのは続編のみであるが、講演という形で発表できたのは収穫である。ただし、どちらも口頭発表にとどまり、論文化にまで至らなかったのは残念であった。 翌年以降の研究につながる入内の事例調査、先行研究調査については順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、後宮にまつわる史上の事例を精査しつつ、調査結果を物語の記述と照らし合わせ、史実の中から物語の設定の准拠を見出す、あるいは物語の虚構の設定の裏にある作者の意図を明らかにすることを目指す。 平成31年度は、まず、考察まで終えている『源氏物語』竹河巻の玉鬘大君参院についての論、『源氏物語』続編の入内断念の論を論文化する予定である。 次いで、先帝の皇女であった藤壺の宮の桐壺帝への入内について考察し、平安時代の帝が皇族庇護の理念を抱いていたこと、藤壺入内の裏にも内親王を庇護しようとする桐壺帝の思いがあったことを明らかにする。 さらに、余裕があれば、皇子女の内裏後宮殿舎での暮らしについて扱う。史上の親王・内親王の宮中居住状況を調査した上で、その結果と比較しつつ、『源氏物語』の光源氏の青年期の内裏住みの問題、前皇太子の娘(後の秋好中宮)が父死後に内親王に準じて内裏住みを勧められた問題について考察する。
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Remarks |
講義「源氏物語の入内断念―続編世界を中心に―」(第31回源氏物語アカデミー)、平成30年10月21日、於ホテルクラウンヒルズ武生
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Research Products
(1 results)