2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12279
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
栗本 賀世子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (80779661)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 源氏物語 / 入内 / 後宮 / 皇妃 / 匂宮三帖 / 薄雲巻 / 朝顔巻 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の実績としては、まず論文「源氏物語の入内断念―匂宮三帖を中心に―」(『藝文研究』2019年12月)がある。これは、第31回源氏物語アカデミー(2018年10月21日、於ホテルクラウンヒルズ武生)での講演内容を論文化したものである。 平安時代の入内が断念されるパターンとして、実家の没落、天皇・東宮との年齢の不釣合、有力な皇妃への憚りがあることを指摘し、続編の紅梅・竹河巻では、源氏一族出身の有力な皇妃(光源氏の娘や孫娘)に憚って他の一族が入内を断念させる例が集中すること、そのことから、かつて正編で権力者光源氏が娘を入内させているにも関わらず他家にも入内を推奨したような状況が続編ではありえない――続編には他家に手を差し伸べる光源氏のような理想的な政治家が存在しないことが浮き彫りにされることを明らかにした。その一方で、入内が断念された姫君たちの結婚相手として、物語内部の価値観に基づき、薫と匂宮という正編の絶対的理想的主人公光源氏を彷彿とさせる人物があえて選ばれていることについても論じた。 この他、藤原克己監修・今井上編の『はじめて読む源氏物語』(武蔵野書院、2020年)では、「薄雲・朝顔巻-藤壺退場」という章を担当した。『源氏物語』の光源氏の娘(明石の姫君)がなぜ将来の后候補として育てられる際に実母の明石の君のもとを離れて紫の上の養女になる必要があったか――史上では明石の君の如く身分低い女性が母であっても入内して皇妃となれた例はある――ということを論じ、物語がヒロインたる紫の上の妻の座を脅かさないために施した設定であったことを明らかにした。また、冷泉帝の御代に起きた天変の意味について、天変は光源氏・藤壺中宮の不義の子として生まれ本来皇位にあるべきでない冷泉帝への警告としてではなく、あくまでも冷泉帝に光源氏が実父であることを気づかせるためだけの装置として機能していることを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一年目に発表した源氏物語第三部の入内断念に関する講演内容を論文化できたのは大きな成果であったが、第一部の入内断念に関してはまだ扱えていない。 また、藤壺の桐壺帝への入内、玉鬘の尚侍としての冷泉帝への入内、物語の皇子女の内裏住みの問題などを2019年度に考察する予定だったが、これも具体的にまだ発表できていない。(調査については概ね終えている)
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、後宮に関する様々な事例の調査を行い、その結果を物語内の記述と比較検討したうえで、物語の後宮の設定の意味、作者の意図について考察していきたい。 2020年度は育児休暇中のため、研究を中断する予定だが、2021年度はまず、まだ論文化していない『源氏物語』竹河巻の玉鬘大君参院についての論を論文化する予定である。 次に、先帝の皇女であった藤壺の宮の入内の意味について考察し、平安時代の帝が皇族庇護の理念を抱いていたこと、藤壺入内の裏にも桐壺帝の内親王を庇護しようとする意図があったことを明らかにする。 さらに、天皇の皇子女の内裏住みの問題について扱い、史上の親王・内親王の内裏居住例と比較しつつ、『源氏物語』の光源氏の青年期の内裏住みの問題、前皇太子の娘(後の秋好中宮)が父死後に内裏住みを勧められた問題について考察する。
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Causes of Carryover |
本研究者は、当初、地方の学会などに積極的に参加することを考えていたが、妊娠したために急遽学会への参加を取りやめることとなり、交通費や宿泊費が浮いて多少の残額が発生した。 この残額は、今後の地方学会・講演への参加費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)
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[Book] はじめて読む源氏物語2020
Author(s)
藤原克己,今井上,青島麻子,東俊也,金静熙,金秀姫,栗本賀世子,中西翔,林悠子,松野彩,尹スンミン,吉田幹生,李宇玲
Total Pages
204
Publisher
花鳥社
ISBN
978-4-909832-15-3