2020 Fiscal Year Research-status Report
中世禅林における黄山谷詩解釈史研究―五山版書入れと漢文抄との比較検討から
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18K12284
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大島 絵莉香 名古屋大学, 人文学研究科, 博士候補研究員 (30761746)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 五山版 / 黄庭堅 / 山谷詩集注 / 抄物 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は本研究課題の成果として、論文「西尾市岩瀬文庫蔵五山版『山谷詩集注』書入れについて―黄山谷詩漢文抄との関わりから―」(『日本中国学会報』第72集、176~190頁、2020年10月掲載)を発表した。西尾市岩瀬文庫蔵本五山版『山谷詩集注』の書入れのうち、いくつかの説は禅僧の号を冠しており、それらの号は、現存する最古の山谷詩漢文抄『帳中香』の抄者、万里集九よりも前の世代の禅僧のものに限られている。当該の論文ではこの状況を踏まえ、西尾市岩瀬文庫蔵本の書入れを、現存する山谷詩漢文抄が成立する以前のものと想定して漢文抄と比較検討し、各漢文抄の特徴について以下の結論を得た。西尾市岩瀬文庫蔵本の書入れから、現存する山谷詩漢文抄への直接的な抄出関係は見出せはしないものの、(1)万里集九『帳中香』は、西尾市岩瀬文庫蔵本の書入れにある説を詳述して補強する事例を提示している点において特徴的であり、一方で、(2)月舟寿桂『山谷幻雲抄』は、西尾市岩瀬文庫蔵本にある書入れと同じ説をとりあげつつ、他の視点からの説を挙げている点において特徴的である。 一方、令和2年に予定していた、大東急記念文庫蔵五山版『山谷詩集注』の書入れの現地調査が、新型コロナウイルスの流行によってかなわなくなったため、本研究課題の関連する研究として、山谷詩漢文抄における山谷詩の解釈に関する論文を執筆した。この論文は、訂正して投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
西尾市岩瀬文庫蔵本の書入れにある説が、直接的ではないにせよ山谷詩漢文抄にとりいれられ、いかに展開したかについて明らかにしたことは進捗といえるが、本研究課題の進捗状況を遅れているとする理由は、新型コロナウイルスの流行によって、令和2年度に予定していた大東急記念文庫蔵本の書入れの調査及び山谷詩漢文抄との比較検討、またその結果の論文化が完了していないためである。なお、大東急記念文庫蔵本は、複写が不可であるため、調査は現地でしかできないことを補足しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、大東急記念文庫蔵本の書入れを、(1)山谷詩漢文抄と比較検討した結果の論文化、(2)西尾市岩瀬文庫蔵本の書入れを比較検討して本研究課題を総括することを目指したい。 (1)に関しては、申請当初の予定通り、大東急記念文庫蔵本全巻の書入れの調査を終えて包括的な研究成果を得ることが望ましいが、今後も引き続き新型コロナウイルスの流行に陰りが見えずに現地調査が不可能な場合は、現在調査が済んでいる巻までのデータをもって、部分的な成果を実現したいと考える。 (2)については、比較対象の西尾市岩瀬文庫蔵本『山谷詩集注』の書入れが巻6までに限られており、さらに大東急記念文庫蔵本も当該の巻までの調査が済んでいるため、大東急記念文庫蔵本の現地調査が可能かどうかが、成果の実現にそれほど影響しないものとみえる。
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Causes of Carryover |
令和2年度は、新型コロナウイルスの流行によって、元より予定していた大東急記念文庫蔵本の現地調査に出向けなかったため、旅費が使えないまま次年度に繰り越すことになった。 令和3年度は、新型コロナウイルスの流行状況を鑑みつつ、予定通り旅費として用いるか、あるいは複写等に用いるかについて判断したい。
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Research Products
(1 results)