2021 Fiscal Year Research-status Report
The Reception of High Tang Poetry in Sinitic Poems by Kinoshita Jun'an
Project/Area Number |
18K12287
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
山本 嘉孝 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (40783626)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本漢文学 / 漢詩 / 儒学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究が焦点を当てる木下順庵による(1)漢字音の理解、および(2)朝鮮通信使との漢詩の応酬について調査し、順庵が唐詩(特に盛唐詩)を作詩の規範とした背景に、近世初期日本に赴いた朝鮮通信使が唐詩(特に盛唐詩)を規範とした作詩を高く評価したことが介在していた可能性を検討した。更に、(3)木下順庵と同時代の儒者、林鵞峰による平安朝漢詩の模倣について口頭発表を行い、木下順庵が模倣的な作詩を理想としたことの時代的背景を探った。 (1)の研究成果は、論文として発表した。(2)の研究成果については、北米最大のアジア研究学会であるAASで発表することが決定していたが、新型コロナウイルス(オミクロン株)の世界的な感染拡大等の理由によりパネルが開催できなくなった。次年度に発表する機会を探りたい。 また本年度は、木下順庵の門人たち、特に室鳩巣・新井白石・祇園南海の漢詩制作を大きく取り上げた著書『詩文と経世 ― 幕府儒臣の十八世紀』を刊行した。木下順庵が率先して取り入れた作詩方法、すなわち盛唐詩の模倣が、門人たちに対して、作詩の規範のみならず、儒臣としての生き方の規範をも提供したことを指摘した。本著作は、本研究の成果も含んでおり、また本研究を発展させる上で欠かせない内容を載せるため、日本国外を拠点とする日本研究者に本著書を頒布し、フィードバックを得た。特に、近世日本の絵画における古画模倣、近世日本における文人趣味の広がりと盛唐詩の関連性、朝鮮の儒者による楽府制作、室鳩巣による教訓書の蝦夷地での受容と展開などについてコメントを頂戴し、木下順庵の学問・文事とその後世への影響をより広い視座から捉え直すことが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
木下順庵の漢字音理解について『蒙求』関連資料を中心に調査し、順庵が、近世初期日本における漢詩文受容の不足点に関心を向け、その是正を図っていたことを明らかにできた。 また、木下順庵の朝鮮通信使との漢詩の応酬についても、調査研究は順調に進んだ。ただし、その成果を口頭発表することを予定していたパネルが新型コロナウイルスのために開催できなくなり、成果発表には遅れが生じている。とはいえ、次年度に発表の機会が得られることがある程度見込まれているため、本研究課題全体はおおむね順調に進展しているといえる。 更には、著書を頒布し、フィードバックを得ることができたため、本研究の成果を活かす形で近世日本全体を捉える発展的な研究へと道筋をつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を来年度に繰り越し、木下順庵と朝鮮通信使の関係を検討した研究成果の発表を行うとともに、著作の頒布を通して得たフィードバックをもとに、本研究をより広い視座から捉え直す研究とその成果発表を行う予定である。 より広い視座から取り組む研究については、木下順庵が開始した本格的な盛唐詩受容が、近世中期・後期にどのような変遷をたどったのかを巨視的に考察し、それを茶道・生け花の同時代史と関連させながら、《通俗化》と《反・通俗化》の繰り返しによって近世日本で中国文化が取り入れらた過程を明らかにすることを計画している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス(オミクロン株)の世界的な感染拡大により、口頭発表者として参加が決定していた海外学会でのパネル(対面)が開催できなくなったため、その分の旅費を使用することができなかった。次年度、海外学会での口頭発表のための旅費として使用することを計画している。
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