2022 Fiscal Year Annual Research Report
The Reception of High Tang Poetry in Sinitic Poems by Kinoshita Jun'an
Project/Area Number |
18K12287
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
山本 嘉孝 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (40783626)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 漢詩 / 通俗化 / ポピュラーカルチャー / 雅文芸 / 江戸時代 / 雅俗 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度には、米国アリゾナ大学で開催された日本近世文化研究の国際ワークショップに対面参加し、英語による口頭発表を行った。通史的、また巨視的に、近世日本で漢詩制作が通俗化した過程に注目し、漢詩制作の通俗化が、そのまま通俗化で終わるのではなく、再び雅文芸側に寄り戻され、そこから新しい様式や趣向の漢詩制作が発生する、という循環的な動きがあったことについて指摘した。発表内では、漢詩制作に加え、いけばな、茶道、書画にも、通俗化から雅文芸側への回帰という、類似する動向が見られたことにも触れた。 また、最終年度中に論文として刊行されたのは、木下順庵の孫弟子にあたる中村蘭林の知的営為についてである。同時に、上記ワークショップの口頭発表に基づく英文論集への寄稿論文も執筆し、編者に提出した。現在、この論集は査読中であり、出版にはもう少し時間を要すると思われる。あわせて、最終年度中は、近世日本の知識人のありかたについて当人たちの証言を探るべく、書簡の影印本も幅広く読んだ。 本研究では、研究期間全体を通して、木下順庵とその門人たちによる盛唐詩受容が雅文芸の範疇で行われ、その後に通俗化された盛唐詩受容とは異なる表現意図を持つことを明らかにした。通俗化された盛唐詩受容には、芸道の型として盛唐詩を機械的に模倣する側面が強く表れたが、通俗化される以前の盛唐詩受容、すなわち木下順庵やその門人たちの詩作には、時代をリードする知識人してどう行動すべきか、という問いかけや、どのような知識人として生きたいか、という自己主張も見て取れる。本研究では、盛唐詩受容に焦点を絞ったため、盛唐詩の模倣が日本で隆盛した18世紀を取り上げたが、本研究の知見は、その後の19世紀における宋詩受容や、「雅」の領域に属する他の様々な文芸や文化的営為の勃興と通俗化について理解する際にも応用が可能かもしれない。
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