2018 Fiscal Year Research-status Report
近世領主説話と地域社会の創生ー体制移行期の説話研究として
| Project/Area Number |
18K12288
|
|---|
| Research Institution | Kobe University |
|---|
Principal Investigator |
南郷 晃子 (中島晃子) 神戸大学, 国際文化学研究科, 学術研究員 (40709812)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
| Keywords | 説話 / 伝承 / 地域共同体 / 領主 / 城 / 池田長発 / 怪異譚 / 体制移行期 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は近代におけるコミュニティの再形成と説話の変容の相関関係を明らかにすることに焦点を定め研究を進めた。特に鳥取、岡山に残る「おさご」という女性に関わる説話の、近代における展開に重心をおいた。そのため岡山県井原地域の尾砂子講にて参与調査を行うとともに、岡山県立図書館を中心に関連資料の精査を行なった。
これらの調査の成果は、2019年3月発行の『説話・伝承学』第27号において「「御家」の神霊の近代的展開ー近代井原における「おさご」伝承を中心にー」として公表することができた。これにより、領主の喪失を中心とする近代移行期の地域社会の変動が説話変容の契機となることを具体的に示した。また「おさご」説話の近世初期から近代に至るまでの変容を通時的に詳らかにし、説話の可塑性を再確認する成果となった。さらに地域社会における領主の遠景化と地方名望家の「近代化」への意思が郷土史における「説話」の変容に大きく関わっていることを明らかにすることができた。説話が、時代の移行期に社会を変容させる運動たることを示す成果であったと考える。
また2018年度は、社会また領主の築城行為と不可分な説話として、山伏に関連する説話の再検討に着手した。山伏に関わる説話を広く整理するとともに、特に厳島と福島正則の激しい摩擦を伴う説話に焦点を当て調査を進めた。体制移行期の宗教者とのせめぎ合いの問題と説話形成の問題を検証するとともに、藩体制形成の前提としての築城行為と説話との相関関係を問い直す研究へと展開させることを予定している。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年1月から3月にかけてメキシコチアパス州へ長期出張を行うという予期せぬことがあったが、2018年度前半に集中的に当該研究を進めていたことなどにより、おおむね計画どおりに研究を進めることができた。
|
| Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、藩体制の確立を説話生成の契機として検証するため、厳島における福島正則に関連する説話の精査を行う。より具体的には、福島正則への厳島弥山の三鬼の怒りに関する伝承を中心におき、近世期の藩政編成期における弥山の宗教者グループと説話形成との関わりを検証する 。同時に広島藩に隣接する福山の地誌である『西備名区』『福山志料』などにおける類話を比較検討し、山伏と領主というモチーフを持つ説話についての、修験者の関与を考察する。また前年度の調査結果をより緻密にするため厳島関係の文書および、広島の地域資料を博捜する。これらをまとめ論文の公開を行うものとする。
さらに、岡山県津山地域の森家に関する伝承を、同地の郷土史家の神社建設の運動との関わりを踏まえて検証し、2018年度の井原地域に関する研究成果との比較考証をすすめた上で成果として公開する準備を進める。
また2020年度の研究計画は現在のところ変更はなく、版本説話集『本朝故事因縁集』にみえる大内氏関連説話の形成過程を解明するため、山口県の地域資料および洞門寺院資料の調査を行うとともに、その19世紀おける「郷土史」としての変質の意味内容を明らかにする。
これらの成果を適宜学会での口頭発表や論文として公表した上で、最終年度である2021年度には中国地方の説話、さらには山陽道沿いの説話として関連付けを行うものとする。
なお、これら近世期移行期および近代移行期の問題を扱うにあたり、独善性を避けつつ考察を進めるために関連研究会での報告を定期的に行う。
|
| Causes of Carryover |
購入図書が予定よりも若干安価だったため942円の次年度使用額が生じた。2019年度の参考図書購入費用分として使用することを予定している。
|
Research Products
(2 results)
