2020 Fiscal Year Research-status Report
近世領主説話と地域社会の創生ー体制移行期の説話研究として
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18K12288
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
南郷 晃子 (中島晃子) 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (40709812)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 領主説話 / 怪異譚 / 地域写本 / 地方領主 / 武家 / 松江藩 / 松山藩 / 津山藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型コロナウィルス流行の影響により研究計画を大幅に変更することになり、前年度までの調査の蓄積がある地域に焦点を当て研究を進めることになった。その中で特に松江藩、松山藩について補足の資料調査を行いながら、成果をまとめることができた。 松江藩については、松江藩家老の伝承を中心に、版本で流布した「事件」が始祖伝承に姿を変え、さらには祭祀の対象となる過程とその背景について考察をまとめた。受容する相手を特定せず、広く享受されるものとしての版本所収説話が、話題の当事者のイエに捉えられ、意味を変えていく。当該事例においては権威ある武家において、説話が家訓としての意味を持ち、近世後期の神概念が変わる中で祭祀の対象になることを明らかにした。これは2021年度刊行の論集に所収予定である。 また松山藩については、蒲生忠知に関わる俎石伝承や灰部屋伝承といった怪異譚を中心に検討を行なった。近代の郷土史家の活動により残された伝承と景観、そして過去についての「知識」が説話を立ち上がらせることについてまとめた。2021年度刊行の一般向け書籍に掲載される。 加えてやはり前年度までの研究の蓄積がある岡山県津山市のお花伝承を中心に、会津や播磨の類似伝承も踏まえながら、「花」という名前を持つ女の伝承が、近世期に武家のイエの断絶を決定する怪異譚として回収されていくことについて検討した。これを通じ「花」が近世的「祟り」を語る話型として、武家に虐待される女として固定されることが見出せた。またお花伝承を本研究課題におけるテーマのひとつである、瀬戸内海流域の説話の移動の事例としても捉え直すことができた。これも2021年度刊行予定の論集に含まれる。 また本研究課題は、近世文学における写本と版本という書物のモノとしての形態の違いを重視するが、これに関しても2021年度4月刊行の書籍に寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は2019年度に引き続いて、新型コロナウィルス流行の影響により基礎調査を十全に行うことができず、2019年度に調査を予定していた広島、備後地域に焦点を当てた伝承研究を進めることができなかった。また、同様に2020年度に予定していた山口における基礎調査も行うことができなかった。これにより、広島、山口を中心に研究をまとめることが難しい状況になっている。ただし2019年度に長期の調査ができないことを前提とする研究計画に切り替えており、概ねそこでの計画に沿って進めることはできている。すなわちこれまでの調査の蓄積があった松江藩、松山藩、および津山藩を中心に、補足の資料調査を加え、郷土への関心と説話の変容というテーマの追求を行うことが可能であった。 ただ、本研究テーマにおいては、文献調査とともにインタビューや参与調査も欠くべからざる点であるが、感染拡大への警戒が強いことに配慮し、2020年度は一切実施しなかった。上記の通り一定の成果をまとめることができたものの、これらは本来予定していた手法を欠くものである。関連寺院や関係者へのインタビューができていないため不備が残る。 また2019年度に調査が進められなかったことの影響で、2020年度中の成果発表は十分ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで進めてきた近世期における領主家、家老家といった権威ある武家のイエ意識の拡大が説話に影響を与えてきたことの検証を踏まえ、2021年度前半は、地域領主が解体したのちの地域社会における説話と権威との相関関係を問う。具体的には、近代移行期に地域伝承が国家を意識し意味変容させていく状況について、岡山県津山市を中心にまとめる予定である。伝承を記念碑に変え書籍に記す主体である、藩および旧藩への思慕を持つ郷土史家のあり方に重点をおきながら、同所における児島高徳説話の独自性について研究を進める。 また「お花伝承」や「おさご伝承」といった身分的周縁にある女の「怨み」がイエの存続と絡み合う説話が、これまで多く見出されたことを踏まえ、あらためて近世期の怨む女伝承をイエ意識の問題とともに捉え直すことを試みる。同テーマについては、新型コロナウィルスの流行により、他県への調査が難しい状況が続くことを踏まえ、所属研究機関の存在する兵庫県内の伝承について中心的に調査を進め、論文のまとめ直しを行うものとする。 また引き続き単著の完成を目指すが、2021年度後半は、もし状況が許せば、2019年度、2020年度にインタビューができなかった愛媛県や岡山県の寺院への訪問を行い補足調査をする。そこで得られた結果を踏まえてこれまでの論文の修正、まとめ直しを行う。これら成果を単著に所収するものとする。 本来であれば、最終年度として総まとめをする必要があるが、感染の拡大/収束の状況を見極めながらのことになる。
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Causes of Carryover |
3月にインタビューを予定していたが、新型コロナウィルスをめぐる状況がまだ厳しく計画を断念したため、そのために確保していた額が若干残ることになった。2021年度の調査費に充てることとする。
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Research Products
(1 results)
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[Book] Materialism of Archive 記憶のマテリアリズム2021
Author(s)
Hiroki Ogasawara, Fumiko Sukikara, Gracia Imberton Deneke, Gianluca Gatta, Hirotaka Inoue, Masato Karashima, Seigo Kayanoki, Ayami Nakatani, Koko Nango, Jose Luis Escalona Voctria
Total Pages
125
Publisher
神戸大学出版会
ISBN
9784909364111