2021 Fiscal Year Research-status Report
近世領主説話と地域社会の創生ー体制移行期の説話研究として
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18K12288
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
南郷 晃子 (中島晃子) 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (40709812)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 領主説話 / 由緒 / イエ / 地域写本 / 武家説話 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、前年度まで調査・研究を行なった成果を2点出すことができた。1点目においては、松山藩における領主の移動に伴う土地利用の変化、およびそれに伴う景観の変化が伝承を涵養したことを明らかにするものである。旧領主、すなわち去っていった領主にはしばしばネガティブな言説が生成されるが、人間の移動には土地利用の変化が伴うものであり、領主の移動/挫折と土地の変貌が「怪談」に結晶するという事例を丹念に明らかにすることができたと考える。同時に、同地では史談会における熱心な景観や資料の保全活動が行われており、その活動が土地に付随する物語を可視化することになることも明確になった。 2点目においては、地域伝承として版本に採録された物語が武家のイエの内部の伝承として再生していく過程をおった。武家の「祖」を語りながら、家がどのようなイエなのかという、そのはじまりを語るイエの神話として、流布版本に収められた奇談が取り込まれていく。「忠」なるイエとしてのイエの由緒と、それを体現する「神」と化した家祖の物語というイエの神話とでもいうべきものが、流布版本を介して生まれている。近世における写本研究はまだ途上にあり、説話研究においても写本から版本へという展開を検証するものが多いが、本成果は、版本における伝承が、写本において再生し、膨らみを持っていく過程を明らかにした点に重要性があると考える。 同時に、2021年はこれまでの研究成果を発展させ、オサカベ譚の見直し、再検証を進めていった。体制移行期の領主説話として重要なオサカベ譚であるが、2018年に確認した資料を踏まえた、関連資料の丹念な読み直しを行なっている。また関連研究の成果も近年出ているため、それらを踏まえることで、より地域社会の人間の活動としての伝承に肉薄することが可能になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、前々年度、前年度から続く新型コロナウィルス流行の影響に加えて、個人的な環境の変化で、十分に研究を進めることができなかった。具体的にはインタビューに行く、資料を集めに行くという、研究の基礎となる調査の部分が十分に行えず、順調に研究を発展させるのはたいへん難しい状況であった。 ただ、活字化されているものも多い流布版本を写本資料と比較しつつ利用することにより、これまでとは異なる知見を得ることもできた。また、国文学研究資料館をはじめとする各公的機関のデータベースの精度が大幅にあがっているため、これらを利用するとともに各地の方に郵送などの方法でご協力を賜ることもできた。これにより当初の予定を変更しながらではあるが、松江、松山の事例についてまとめることができた。一定の成果を出すことができていると考えられる。 しかし、インタビューや祭祀の実態の確認が重要になる近代移行期の事例については、やはり立ち遅れていると言わざるをえない状況にある。また、本研究課題においては、領主の「移動」を重視するため複数地域での調査が必要になるが、その点においても十分達成できているとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗が不十分であったため研究課題の一年延長を行い、2022年度が最終年度になる。これまでの成果においては、藩政確立期の事例が多く、本研究課題で重視していた近代移行期に焦点をあてるものが不足していると考えられる。そのため近代移行期の事例についての成果を出すことを目指す。ただし新型コロナウィルス感染症の影響が想定されるため、居住する関西および近隣地域に重点をおきながら調査研究を進める。 また体制移行期を考える上で、近世への移行期と近代への移行期の説話生成の異同について丹念に比較検討を行うことが重要だと考えらえる。そのためこれまで近世移行期についての研究を蓄積してきた、姫路の事例に焦点を当てることを計画している。ここにおいて2021年度に見直しをおこなっているオサカベ関係の資料についても、追加調査を行い、成果としてまとめる予定である。 これらに加えて、これまでの考察を進めた各地の事例を包括的に捉え直すことを予定している。ここにおいては、今年度の成果である、版本から写本へという展開について、重点的に取り扱う。版本から写本への流れは、地域社会が自らに関する記録を語り直そうとする行為の反映であるとみなせる。ここに注目することで、説話を介した社会構築という本研究の視座に合致する研究を進められると考えられる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症流行の影響により、予定をしていた調査に行くことができなかったため、出張費が大幅にあまり次年度使用額が生じてしまった。研究機関を一年間延長したため、2022年度中に補足調査のための出張を行う予定である。
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Research Products
(2 results)