2022 Fiscal Year Research-status Report
近世領主説話と地域社会の創生ー体制移行期の説話研究として
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18K12288
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
南郷 晃子 (中島晃子) 桃山学院大学, 国際教養学部, 准教授 (40709812)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 城 / 御家 / 地域社会 / 近世説話 / 怪談 / 領主 / 写本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、徳川体制の確立期と近代への移行期という二つの体制移行期という社会が大きく変化した時期における説話の形成と変容について、説話に関連する人々の「運動」という側面から考察するものである。 前年度までの新型コロナウィルス感染症の影響による調査の中断を受けて、当該年度は、これまでの調査の蓄積がある地域を対象に、従来の研究を深化させる方針に転換をした。 この中で、姫路城の怪談、オサカベ説話と関連して知られる、会津地方を中心とする奇談集『老媼茶話』所収の猪苗代城の「亀姫」に関する説話についての考察を進めた。同説話は、従来奇談としての面白さや泉鏡花『天守物語』との関連からの検討はありつつも、十分に考察の対象とはされてこなかった。申請者は、同話の受容者や諸本の写し間違いに着目し、この話が同地域の社会的動揺と結びつけられる視点があったことをまとめた。2023年度5月現在未公開だが、公開へ向けて準備が進んでいる。 また、かつて発表した岡山藩家臣家の抱え込んだ神霊に関する説話について、その登場にまつわる「語り」がイエの始まりの物語の再話としての側面を持つことに着目した捉え直しを図った。イエの始まりの神話性を有する説話が、近代移行期の武家体制が動揺した時期に語られていた。イエの「神話」がイエが終わりを迎える中で再登場する事例としての分析を行なった。 「事実性」を標榜する説話については、これまでもその背景となる社会状況とともに論じられることが常であったが、本研究ではそれをさらに推し進め、話の生成を体制移行期の社会変動と共に、動的に論じる視点を導入できていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画を延長しているため、当該年度は本来であれば研究の総まとめを行うべきであったが、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて2021年度まで各地への調査がストップしてしまっていた。それに伴い、引用資料における記述の再確認や建物の位置確認といった基礎的な確認が不十分なまま残されてしまっていた。そのため研究を思うように進められなかった上、当該年度に職場が変わり研究時間の確保が難しかったという個人的な理由も加わり、研究を当初の想定通りに進めることが叶わなかった。しかし夏以降にはこれまで中断していた資料調査を再開することが可能になり、研究成果の論文化も当初の想定よりもペースは遅いが、一定程度進めることができている。ただし公開には至っておらず、また説話の近代以降の展開を考える上で重要になる参与調査は行うことができなかった。以上の理由により「遅れている」と結論づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までは、新型コロナウィルス感染症の影響を想定し、過去の研究を深めること、居住地である関西近郊で確認できる調査対象を基盤に研究を進めることに主眼をおいてきた。2022年度後半からは調査可能な範囲が広がったが、今年度は最終年度であり、これまでの研究方針から大きく舵を切ることはせず、論文、著作の公開を精力的に行っていく。そのため国立国会図書館や大学図書館、地域図書館での補足調査を加えるとともに、研究会や読書会を通じ、知見の深化を図る。また今年度は数年間中断していたインタビュー・参与調査が可能になると考えられるため、あらためてインタビューと参与調査を行い、新型コロナウィルス感染症影響下での祭りの形なども含め、最終的な成果に反映させたいと考える。まずは会津猪苗代城に関する論文の公開を行うこと、また単著の公開準備を進めることとしたい。
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Causes of Carryover |
2021年度においては、予定していた参与調査をはじめとするいくつかの調査にいくことができず、研究を完結することができなかったため、次年度使用額が生じた。2022年度は、参与調査に行くこと、補足調査のため国立国会図書館をはじめとする各地の図書館に行くことおよび参考資料の購入を予定しており、これにより使用計画は完了できるものと考えている。
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