2019 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の詩的言語における〈近代〉批評の実践に関する文化史的・思想史的研究
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18K12291
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
田口 麻奈 都留文科大学, 文学部, 准教授 (80748707)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 鮎川信夫 / 疎開 / 抵抗詩 / フランス・レジスタンス / 戦後詩壇 / IOM同盟 / 詩歌原稿展 / 1950年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、前年度に出版した拙著の公開書評会や、刊行をきっかけとした招待講演などを中心に、研究の現状と課題を周知する機会を多く得た。とりわけ、鮎川が一時期疎開していた地でもある岐阜県郡上市にて招待講演を行った際には、鮎川信夫「橋上の人」(戦中版)について未発表の研究成果を提示した(於・郡上市総合文化センター)。本講演の内容については、現在、論文化の準備中である。また同企画の一環として、詩人の藤井貞和氏(東京大学名誉教授)とともに、パネルディスカッションも行った。藤井氏に加え、同地在住の原義典氏(詩人)、井藤一樹氏(郡上市図書館協議会会長)らと議論を交わし、今後の鮎川信夫受容について、幅広い読者層を視野に入れた展望を得ることが出来た。 また、戦後詩をめぐる基礎研究の一環として、兵庫県姫路市で開催された詩歌原稿展についての論考「IOM同盟を中心とする街頭ハガキ展、詩歌原稿展および姫路原爆展をめぐる資料の整理と検証」(『都留文科大学大学院紀要』第24集、2020年3月)を発表した。本稿は在日朝鮮人文学を専門とする逆井聡人氏(東京外国語大学講師)との共著であり、1950年代の詩人・言論人の手になる多数の第一次資料を整理・紹介するものである。これらの新資料群は、公益財団法人・日本近代文学館に寄贈するとともに、冊子体の資料集『IOM同盟主催 街頭ハガキ展・反戦平和のための詩歌原稿展資料集』(2020年3月、非売品)を制作することで、経年劣化の激しい現物の保護を図り、関連する研究者各位の閲覧に供するよう努めた。またこの資料整理の過程では、当時、レジスタンス運動の模範として扱われたアラゴンやエリュアールの詩を書き移した展示品なども確認されている。戦後詩壇におけるフランス文学への意識は本研究の重要な課題の一つであり、今後、上掲の論考にとどまらず、発展的な研究成果へと繋げる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度に刊行した研究書をきっかけとして多様な意見交換の機会が生じ、向後の発展的な展望を多く得ることが出来た。本研究の主軸となる基礎研究の拡充についても一定の達成があり、まだ成果発表に結びついていない資料の発見も含めて、課題に合致した進捗があったと言える。予定していた〈東大詩人サークル〉 の機関誌の調査に関しては、本年度にあらたに整理・検証した新資料の中に、この機関誌の考察に寄与すると思われるものが多く見つかっている。資料調査の面で新展開があった分、成果発表は遅れてしまっているが、来年度中に形にすることを目指したい。 一方、本年度に具体化する予定であった国際学会(第16回EAJS)へのパネル申請は、参加予定者の環境の変化等により調整が難しく、申請者個人の単独発表に切り替えるなどの変更が生じた。本来、複数の海外のパネリストとの連携を前提にした計画であったため、内容も組み替える必要が生じたが、応募自体は無事に採択され、国際的・学際的な場で研究成果を問う機会そのものは獲得することが出来た。ただし、当該の国際学会の開催自体が、新型ウィルスの感染拡大措置のため延期となっており、現時点で、本研究期間中には課題完了できない見通しである。 また、初年度から持ち越しているシュルレアリスム絵画と戦後詩の連続性についての課題は、本年度にさらに資料的な探求が進み、より包括的な構想に形を変えつつある。やはり成果発表が遅れてはいるものの、引き続き論文化の作業を進めたい。 以上のように、予定していた課題に関して変更となった部分も多いが、本質的には当初の目的を果たす方向で作業を進めることが出来ており、進捗はおおむね順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画の段階ではそれぞれ独立性の強かった課題を、互いに関連するより包括的な視座から捉えることを目指したい。具体的には、現在、初年度の課題であったシュルレアリスム絵画関連の検証が遅れているが、この二年間の資料踏査をふまえ、他の課題との関連性のもとにその見通しを示すほうが、本研究課題の骨格がより明らかになると考えるようになった。年度ごとの達成目標として計画していた各課題を実質的に繋ぐ根拠も見つかりつつあることから、<東大詩人サークル>のような学生運動の論理とも関連付ける形で成果発表へ繋げることを考えたい。 なお、【研究実績の概要】でも述べたように、現時点で参加予定の国際学会が一年延期となっており、資料調査を含め、次年度は海外での研究活動が制限される年度となることが予想される。その場合は、引き続き国内外の研究者とメール等の手段で連携を取りつつ、この二年間で蒐集した資料の検証と共有に注力したい。具体的には、研究成果をより広く発信するための英語論文の執筆、その際の英文校閲費などに研究費を多めに配分し直すことを検討する。調査活動が制限される分、多層的な成果発信の準備に重点を置いて、停滞することなく作業を進めたい。
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Causes of Carryover |
当初は資料調査のため2月下旬に国内出張を予定していたが、新型コロナウィルスの感染流行を受け、所属機関から不急の出張を控えるよう通達があったため予定を中止とした。次年度以降も当面は出張の計画を立てることが出来ないため、未使用分は日頃から共同歩調をとっている研究者各位と資料を共有するための通信費として計上する。
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