2020 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の詩的言語における〈近代〉批評の実践に関する文化史的・思想史的研究
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18K12291
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
田口 麻奈 明治大学, 文学部, 専任准教授 (80748707)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 『ぼくたちの未来のために』 / 東大詩人サークル / 学生運動とアカデミズム / 世代論 / 花崎皋平 / 現代詩批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、当初の研究計画では最終年度の予定であったが、covid-19の影響により資料調査や学会発表のための出張を実行できず、一部の研究計画を延長する運びとなった。しかしながら、初年度から継続的に調査している〈東大詩人サークル〉の機関誌に関して、編集発行人であった山本恒氏の旧蔵本の中から、当該誌の前身また前々身にあたる同人誌を新たに確認することが出来たほか、「荒地」グループとの交流を跡付ける私信の類も発見・入手することが出来た。これらは当該雑誌の周辺の人脈や対外的な活動の詳細を明らかにすることのできる貴重な資料であり、現在、総合的な検証を進めている。 また本年度は、前年度に実施した拙著の公開書評会の録音を文字起こしし、座談会として公開することが出来た(「〈近代〉に繋留する――戦後詩に〈正面〉から向き合うこと」『現代詩手帖』2020年11月)。特に参加者の逆井聡人氏(東京外国語大学講師)や村上克尚氏(東京大学准教授)は、申請者と同世代の戦後文学研究者であり、諸氏との議論を通して、現行のポストコロニアリズムやポストヒューマニズムの議論と拙著との差異や交点を検証することができ、大きな示唆を得た。 また進行中の課題として、商業誌上における「荒地」特集の企画に携わり、多方面からの考究を可能にする執筆者の人選やテーマ設定など、戦後詩を新たに考察していくための土台作りに注力した。当該の特集は2021年夏以降に刊行の予定であり、現在、作業を進めている。そのほか、詩の解釈におけるアイロニーに注目した小文「日本語から日本語へ」(『文芸研究』2021年3月)や、近現代詩に関する評論集の書評(岡本勝人『詩的水平線』響文社、坪井秀人『二〇世紀日本語詩を思い出す』思潮社)を執筆し、詩をめぐる批評・研究の現在の課題について省察と問題提起をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、covid-19の影響により海外での資料調査や研究交流を中止せざるを得ず、登壇予定であった国際学会(第16回EAJS)も延期となった。加えて、申請者個人の環境の変化(所属機関の異動)により、パソコンやプリンタなどの基本的な機器を軒並み購入し直す必要が生じ、研究費の使途を設備備品費に大幅に振り替えることとなった。従って、従来の研究計画に照らして未完了の作業や、研究費の投入が困難になった課題が一部残っている。 その一方、〈東大詩人サークル〉関連の貴重資料を新たに入手するなど、国内の古書の渉猟を中心におこなったゆえの予想外の成果も大きかった。本年度は感染症対策の都合上、蒐集家など個人の資料所蔵者を来訪することを控えざるを得なかったが、そのぶん、普段は調査の対象としない古物商のカタログ等も検証する時間が増え、結果的に重要な資料を発見することができた。延期となっている国際学会についても、オンライン開催に変更の上、2021年夏に実施予定であり、現在、発表の準備を進めている。 このように、延期・延長となった課題がある一方で、本研究の目的に合致した基礎研究や資料蒐集は目に見える成果をあげており、総合的な進捗状況は悪くないと考えている。また、【研究実績の概要】で触れた商業誌上の特集企画への協力についても、当初の計画内にはなかったものだが、幅広い研究ネットワークの構築のためには極めて有意義な試みである。特に今回は、媒体が商業誌であることで、所属学会等にとらわれることなく多様な書き手を集めることが出来た。かねて研究の層の薄いこの分野にとって是非にも必要な契機であり、その点でも、本年度の作業は向後大きな発展に繋がる要素を多く含んでいる。以上のことから、進捗はおおむね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(2021年度)が最終年度になるため、今後は、まずは国際学会(第16回EAJS)での成果発信を着実に遂行し、戦後詩研究の現在地を国内外の研究者と共有することを目指したい。【現在までの進捗状況】でも述べたように、2020年度は所属機関の変更にともなって、必要な備品類を新たにそろえ直したため、海外旅費を使用しなかったことを差し引いても、研究費が潤沢に残っている状況とは言えない。従って、今後の研究費の使途は主として学会発表に向けての英文校閲費を想定して作業を進める。その後は、本研究期間内の蓄積に基づき、〈東大詩人サークル〉に関わる資料の紹介および考察を年度内に形にすることを目指す。また、作業を継続している鮎川信夫「橋上の人」(戦中版)の論文化についても、知識人の位置という課題との連続性を明確にしつつ、年度内の発表を目指したい。
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Causes of Carryover |
当初は8月に国際学会への参加のためベルギー・ゲントへ渡航する予定だったが、新型コロナウィルスの感染流行を受け渡航が延期となった。その後、学会はオンライン開催となることが決定したため、未使用分は、学会発表にむけての英文校閲費として計上する。
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Research Products
(4 results)