2020 Fiscal Year Research-status Report
Basic study on the literary matters of Kimura Mokurou
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18K12292
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
三宅 宏幸 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (90636086)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 黙老 / 馬琴 / 増補稗史外題鑑批評 / 自撰自集雑稿 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は讃岐高松藩の家老であった木村黙老の文事について研究するものである。今年度は新型コロナウィルス感染拡大防止のため、黙老関係の資料が遺る香川県などへの出張調査が十分には行えなかった。ただ、緊急事態宣言等の合間を利用し、対策を施した上で黙老の旧蔵書の探索・調査を行った。 資料探索では、大阪府立中之島図書館所蔵『松蔭日記』と『南朝詔運図』に着目した。『松蔭日記』は曲亭馬琴の旧蔵書としてこれまで知られていた(『曲亭馬琴日記 別巻』索引)が、表紙に「二十六」の貼紙があり、黙老の蔵書目録「高松家老臣木村亘所蔵書籍目録残欠」(多和文庫蔵)の当該番号の欄に『松蔭日記』の書名が載る。馬琴の旧蔵かつ黙老の旧蔵と考えて良い。また『南朝詔運図』は「瀧澤文庫」の印記があり、表紙には「六十一」と書かれた黙老旧蔵書に見られる貼り紙があった。これも馬琴旧蔵かつ黙老の旧蔵書である可能性がある。さらに、香川県立図書館には「木村蔵書」の印記がある『三浦市右衛門覚書』の複写が所蔵される。原本の所蔵者は不明だが、これも黙老が所蔵していた書物と考えられる。 また、報告者は図らずも馬琴の知友である石川畳翠が天保六年に写したとされる馬琴の自撰詩歌集『自撰自集雑稿』を入手した。黙老と馬琴との関係が天保期を中心とすることをふまえ、本書が何らかのルートで黙老へ渡った可能性を考慮し、調査を行った。黙老の直接の関与は確認できなかったが、馬琴をめぐる様々な環境が『自撰自集雑稿』および黙老・馬琴の著した『増補稗史外題鑑批評』の成立に関わったことが、本書を検証することによって明らかとなった。 他にも、現存する書簡に黙老が伊勢の画僧・月僊の画を求めたことが記されていることから、黙老の画業と月僊の画との関係についてなど、今後の課題を見出せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者が2019年度に発表した論文「木村黙老の蔵書目録攷」でその意義を紹介した多和文庫所蔵『高松家老臣木村亘所蔵書籍目録残欠』は、黙老の旧蔵書探索のツールとなりうる。報告者はこれまでに、様々な旧蔵書を探索し、香川県だけでなく、大阪府、奈良県、三重県の諸機関・文庫に所蔵されている資料を調査してきた。その過程で、黙老の旧蔵書が誰から受け継いだものなのかも明らかとなることもあったが、特に近藤重蔵、馬琴、山崎美成、石塚豊芥子との関係は注目に値する。加えて、報告者は山崎美成、石塚豊芥子に加えて小津桂窓の黙老宛書簡の複写を以前に入手しており、2021年度に報告する予定である。これは黙老の文化圏・ネットワーク、あるいは興味関心などを明らかにする資料であり、近世文学研究に資するものと思われる。 以上のように、黙老をめぐる文化圏について様々な検証・分析を行っており、研究は進展している。しかし、全体の資料調査としては十分に行えていない。ひとえに、新型コロナウィルス感染症拡大への対策から、全国の図書館や文庫等の機関に赴けないためである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はテーマを二つに分けて研究を続行する。 一つ目が黙老の旧蔵書を探索し、かつ書簡についての調査・分析も行うことである。これまでにも行ってきた調査であるが、未だ見出せていない資料が遺っている可能性が高い。また書簡については、黙老に関することだけでなく当時の社会状況が伺える内容が記されており、その分析を行っていく。例えば、黙老宛石塚豊芥子書簡には、弘化に改元された時の落首や水野忠邦の病気のこと、江戸で流行した見世物や天保の改革による書肆の対応などの記述が見える。他にも、山崎美成や小津桂窓の黙老宛書簡が現存しており、これらの分析を行うことで、黙老の交流関係について考察を深める。書簡の内容を見ていると、江戸における出版界の状況、珍書に対する興味関心が見て取れる。 そして、これも昨年度からの継続テーマである黙老の画業について調査する。黙老の画業はあまり着目されていないが、著名な平賀源内の肖像画を描いたのが黙老である。今回、現存する書簡に記された内容から、黙老が月僊や奥田三角の書画を収集していたことが判明した。黙老の文業・画業について検証する際に参考となる。そこで、黙老の旧蔵書や随筆『聞くままの記』、『続聞くままの記』、『龍集説考』などの黙老著作と画業との関係などを検証していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症拡大防止への対応から、国や大学から出張の自粛要請が出たことに加え、所蔵機関のある都道府県からの要請で、訪れる予定であった図書館、文庫、美術館、博物館など臨時休館になることもあった。また受け入れを急遽断られたりしたこともあり、十分に調査を行うことができなかった面もある。その結果、予定していた調査のための旅費を中心に次年度使用額が生じた。また、実際に資料を閲覧できなかったことで、資料の内容が分からないため、マイクロ複写などを行う機会も少なかった。よって、それら複写費用についても次年度使用額が生じた。 今年度行うことができなかった調査については、次年度中に改めて行う予定でいる。しかし、次年度もコロナ関連で国や地方自治体、各大学からの要請を注視する必要がある。計画としては、香川県の各機関(多和文庫、鎌田共済会郷土博物館、香川県立ミュージアム、香川県立図書館など)や、大阪府立中之島図書館、天理大学附属天理図書館、神宮文庫、国文学研究資料館、国会図書館などに資料調査に赴くことを考えている。各機関と相談して、調査を予定していく。
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Research Products
(4 results)