2021 Fiscal Year Research-status Report
Basic study on the literary matters of Kimura Mokurou
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18K12292
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
三宅 宏幸 愛知県立大学, 日本文化学部, 准教授 (90636086)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 黙老 / 美成 / 豊芥子 / 桂窓 / 馬琴 / 篠斎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近世後期の讃岐高松藩家老であった木村黙老について研究するものである。今年度も新型コロナウイルス感染拡大防止と本務校の校務の多忙によって、黙老に関する資料を所蔵する香川県や大阪府などへの出張がままならず、調査が十分に行えなかったため、これまでに収集した資料を中心に検証を行った。 まず、黙老宛書簡の検証である。鎌田共済会郷土博物館には黙老宛の書簡が三通所蔵されている。それぞれの差出人は山崎美成、石塚豊芥子、小津桂窓である。美成は江戸の風俗考証を行う随筆家・雑学者、豊芥子は珍書や古書などを収集した蔵書家、桂窓は馬琴や篠斎を通じて交流した伊勢松坂の豪商で蔵書家、紀行文も書いた。美成の書簡には美成著『随掃篇』を借りた黙老から、不明としていた器材について農具であると教示を受けた御礼などが書かれる。豊芥子の書簡には天保の改革下の江戸における読本・合巻の出版や『偐紫田舎源氏』の絶版に関する記述が見られる。桂窓の書簡からは黙老が月僊や奥田三角、平田篤胤の諸作に興味を持っていたことや、共通の知友殿村篠斎が篤胤の資料を多く所蔵していたことも分かった。黙老は江戸や伊勢の人物達と書簡で様々な情報の交換を行っていたとわかる。そして上記の書簡の翻刻を、拙著『馬琴研究―読本の生成と周縁―』(汲古書院、2022年2月)にて紹介した。さらに、黙老宛の馬琴書簡も一通入手した。この書簡はすでに紹介されている資料ではあるが、原本の所在が不明とされていた。こちらの書簡についても、今後紹介していく予定である。 また、上記の書簡の内容にあった黙老が伊勢の画僧月僊や奥田三角の書画を求めていたことから、黙老の画業にも着目した。鎌田共済会所蔵の鉄筆画や写真版の黙老の画に加え、報告者も黙老の肉筆絵を入手した。黙老の随筆『聞ままの記』の記述を含め、黙老の文画について今後研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者がこれまでに紹介してきた黙老の蔵書目録を踏まえ、様々な旧蔵書を探索してきた。例えば香川県の多和文庫所蔵の『傘笠考』は黙老の旧蔵書かつ山崎美成の旧蔵書でもあるが、美成との書籍の交流は具体的に不明な面もあった。しかし、鎌田共済会郷土博物館所蔵の美成書簡を読解することで、美成の随筆『随掃篇』や『秘書半千』などを黙老が借り、また美成も黙老の随筆を借りるという交流が見出せた。また石塚豊芥子の書簡では江戸の出版に関する情報だけでなく、水野忠邦など政治に関する話題もあがっており、歴史的にも貴重な内容といえる。小津桂窓の書簡には、黙老が城崎の温泉に立ち寄り、その際の紀行文を著そうとしていることを書き記しており、紀行文を多く著述する桂窓との交流が垣間見える。このように、各書簡を検証することで、黙老の交友関係の一端が少しずつだが明らかになってきている。 以上記したように、新型コロナウイルス感染症拡大への対策から、各地の図書館や文庫等に赴けていないものの、適宜資料を収集し、黙老周辺の文化圏について検証・分析を行ってきた。したがって、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度もテーマを二つに分けて研究を続行する。 一つ目が黙老の旧蔵書を探索することである。これまでも継続してきた調査であるが、未だ見出せていない資料が遺っている可能性が高い。黙老の旧蔵書は散佚したと言われており、香川県、大阪府、奈良県、三重県等の各機関で黙老の旧蔵書を発見してきた。また近年、黙老の旧蔵書である『東韃紀行』が古書展で紹介されたこともあった。新型コロナウイルス感染症の対策から昨年度も十分に資料調査が行えなかったが、各地域に赴いて黙老の旧蔵書を探索する。 そして旧蔵書を探索する過程で、黙老の蔵書目録に記載される書物の内容を調査し、随筆に引用されていないかを検証していく。 そして、継続のテーマである黙老の画業について調査する。黙老が月僊や奥田三角の書画を収集しようとしていたことは既知のことであるが、具体的にどのような影響を受けたのかを検証していく必要がある。黙老の文画について検証するために、黙老の蔵書目録に掲載される書目、これまでに判明した旧蔵書や随筆『聞ままの記』、『続聞ままの記』などと絵画との関係に着目していきたい。
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Causes of Carryover |
今年度も新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応に加えて、校務や雑務の多忙によって十分に資料調査に赴くことができなかった結果、出張旅費に次年度使用額が生じた。また、資料を直接閲覧できなかったことにより、カメラ撮影やマイクロフィルムの複写などを行う機会が得られなかった。よって、それら複写費用についても次年度使用額が生じた。 資料の調査については、新型コロナウイルス感染症拡大防止に対応しながら、継続して行う予定である。香川県の各機関(香川県立図書館、鎌田共済会郷土博物館、瀬戸内海歴史民俗資料館、多和文庫など)や、大阪府立中之島図書館、天理図書館、神宮文庫、国文学研究資料館など、これまで調査した中で黙老旧蔵書が所蔵されいた機関を中心に調査に赴くことを予定している。
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Research Products
(5 results)