2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12293
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
山本 真由子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 講師 (00784901)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 本朝文粋 / 本朝続文粋 / 扶桑古文集 / 書序 / 新撰萬葉集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、平安朝の和歌序を注釈し、その特質と意義とを明らかにすることである。本研究では、平安朝の和歌序、すなわち和歌制作の背景となる状況を文章とした作品をあつかっている。和歌序は、それだけで独立して鑑賞し得る作品である。和歌序は、漢文と和文(仮名文)の作品が残る。それらは内容から、書序(一書の序)、宴集の序 、定数歌の序に区分される。 当該年度は、先ず、「平安朝の大堰川における漢故事の継承」で、多くの和歌序が制作された場所における、表現の典拠となった漢故事の継承について明らかにした。当初の研究計画に基づき、平安朝の和歌序を収集、整理したところ、『本朝文粋』、『本朝続文粋』など、複数の資料に、平安京の郊外の大堰川で作られた漢文の和歌序が伝存していた。それらを注釈すると、共通して「紅葉」を描くことが判明した。「紅葉」の表現は、延喜7年(907)の宇多法皇の大堰川行幸において「紅葉落」の題が与えられ、漢詩と和歌とが詠作されたことに基づくと推定される。この行幸では、紀貫之によって仮名文の和歌序が書かれ、「大堰川行幸和歌序」として知られる。「紅葉落」の題の漢詩の表現には、嵯峨天皇の河陽(山崎)行幸における「江上落花詞」の奉和詩の影響が見られる。河陽は、潘岳「河陽一県花」の故事に基づき、春に花の漢詩文を作る場所だった。これに対して、大堰川は、秋に紅葉の漢詩文と和歌、仮名文を作る場所となっていったと考えられる。 さらに、「和歌と漢詩―平安朝における実例をめぐって―」では、奈良朝から平安朝にかけての和歌と漢詩との関係が変遷する過程を検討するため、和歌序を取り上げた。特に『新撰萬葉集』の書序について、先行研究を整理し、当時の和歌の状況を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、平安朝の和歌序を収載する資料の諸本を調査し、収集、整理を進めている。和歌序が収載される資料である、『本朝文粋』、『本朝続文粋』、『扶桑古文集』、『本朝小序集』については、おおよその整理を終えることが出来た。 また、整理を終えた和歌序の中で、重要と思われる作品については、漢文学と和文学双方の表現をふまえて注釈を始めている。注釈の際は、典故や用例を踏まえて厳密に語釈をしている。注釈の過程において、典故の継承という事象を発見し、論文にまとめることが出来た。 加えて、当初は、平安朝を通して和歌序はどのように展開したのかを考察する計画であったが、『新撰萬葉集』の書序に着目したことによって、奈良朝の和歌序からの展開を検討する必要性に気が付いた。和歌と漢詩との関わりという視点からの検討ではあったものの、奈良朝からの和歌序の変遷を捉えることが出来たことは、研究の進展に重要であったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、平安朝の和歌序を収載する資料の諸本を調査、収集、整理を進める。今後の調査対象としては、、『朝野群載』、『本朝文集』、歌合巻、私家集などを予定している。効率的に収集を進めるため、歴史資料、データベースを活用する。 また、和歌序本文の異同を調べ、必要があれば校訂する。和歌序は、伝本が複数ある場合のほか、複数の書に収載される場合がある 。 整理、校訂の済んだ和歌序から、漢文学と和文学双方の表現をふまえて注釈する。注釈の際は、典故や用例を踏まえて厳密に語釈をし、語釈をふまえて解釈する。解題的研究(和歌の有無、作者、歌会の開催年時、参加者、場所など)を併せて行う。 さらに、序と和歌とはどのように関わるのか、奈良朝から平安朝を通して和歌序はどのように展開したのか、他のジャンルの文学作品とはどのように関わるのかを考察し、平安朝文学における和歌序の意義を明らかにする。 以上の成果は、所属学会の大会および例会で研究発表を行い、発表の質疑によって考察を深め、論文を作成して、所属大学の紀要、学術誌に掲載する。
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Causes of Carryover |
物品費として使用予定であったが、購入予定の物品の金額より少なかったため、次年度使用額が生じた。次年度の物品費と合わせて使用する予定である。
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Research Products
(2 results)