2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K12296
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
滝澤 みか 立教大学, 文学部, 特別研究員(日本学術振興会) (20778683)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 軍記物語 / 教訓 / 改作 / 偽書 / 仮託 / 模本 / 絵巻 / 版本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、16世紀の社会の動乱期における軍記物語と教訓書の関連性の解明を目的とするものである。本年度は五点の成果を発表した。 まず「流布本『保元物語』『平治物語』による合戦場面の改変から見えるもの」(「日本文学研究ジャーナル11」2019.9)は、本研究課題の中心的成果である。流布本両物語による合戦場面の改変を検証することで、各作品の価値観や、その価値観の許容範囲を浮かび上がらせることが可能であることを示し、それは単に個々の作品の特性の解明のみならず、中世文学全体の問題を考えること、そして教訓的要素を持つ作品による情報の改変が、仮託や偽書のシステムの問題にも繋がる可能性を指摘した。 次に「『平治物語絵巻』は何を表現しているのか」(『古典文学の常識を疑うⅡ』勉誠出版、2019.9)は『平治物語』と関わる『平治物語絵巻』の改変の問題を取り扱ったものであり、文学と絵画の問題は「センチュリー文化財団蔵(斯道文庫寄託)本からみる『平治物語絵巻』「六波羅合戦巻」の展開―物語と絵画の世界の方向性を考えつつ―」(『古代中世文学論考40』新典社、2020.3)へと続き、同じいくさを題材としていても、文学が進む世界と絵画が進む世界とで方向性が異なることを明らかにした。 さらに「流布本『保元物語』と流布本『平治物語』が纏う〈知〉の違い」(「武蔵野文学67」2019.11)では、流布本『保元物語』に見える地名の特徴や、『三教指帰』と一致する本文を見出しつつ、流布本『保元物語』と流布本『平治物語』とで依拠する知が異なることを指摘した。 最後に、「『保元物語』『平治物語』における版本の挿絵の展開―流布本本文と絵の照合から―」(『軍記物語講座 第一巻』花鳥社、2020.1)では、流布本の本文を基軸として、版本が作られる中、改作の意図がずれていく様子を明らかにし、教訓性の持続の問題を考えることにも繋がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は資料調査を行うとともに、論文の形で複数の成果を形にすることが出来、中世文学全体の問題や、文学と絵画の違いについて見解をまとめることが出来たため、順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに16世紀における軍記物語の周辺作品にも踏み込んだ検証を進めていく予定である。ただし資料収集に関しては、本年度末からの社会情勢により資料の所蔵機関が調査不可能である状態が続いているため、場合によっては複写申請を行うことで調査を進める。
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Causes of Carryover |
理由としては、本年度末からの社会情勢により、資料の所蔵機関における調査が不可能となった点が大きい。次年度においても、すでに調査が不可能という回答を得ている機関も存在している。そのため、今後の使用計画としては、調査が不可能となった機関については可能な限りは資料の複写申請を行い、各資料の精読を行うことで研究課題を進めていく。資料閲覧の再開がされ次第、書誌情報などの調査を行う予定である。
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Research Products
(5 results)