2019 Fiscal Year Research-status Report
考証趣味のネットワークと戯作との関わりを手掛かりとした近世後期文芸の研究
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18K12306
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
有澤 知世 国文学研究資料館, 研究部, 特任助教 (70816313)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 江戸戯作 / 山東京伝 / 菅原洞斎 / 谷文晁 / 屋代弘賢 / 松平定信 / 画師姓名冠字類鈔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、考証学と戯作との関わりを明らかにすることで、雅俗にわたる近世後期の文化・社会のなかに戯作を位置づけることである。 今年度は特に、文化年間における文化人の古書画に対する関心の在り方と、情報のネットワークの様相を探るため、秋田藩江戸邸に仕えた狩野派の絵師菅原洞斎が、文化三年頃から月に一度開催した古書画展観会の場を再現することを目指し、その成果を論文「菅原洞斎の古書画展観会」として『上方文藝研究』第16号に掲載した。 洞斎が絵師の伝記や落款・印章をまとめた『画師姓名冠字類鈔』(国立国会図書館蔵)および、本書と密接な関わりを持つとされる谷文晁『本朝画纂』は、展観会の成果を収めた書物とされる。本稿では、展観会参加者による書留や発言録などを併せて参照し、会の席上でどのような資料が公開され、どのような議論が交わされたのかを明らかにした。 具体的には、谷文晁『文晁画談』、屋代弘賢『己卯掌録』、『輪翁画譚』を併用し、幕府祐筆を務めた弘賢が、特権的な立場を利用して、徳川家縁の寺の従物などを会へ提供していることや、和漢の資料を参照しながら、当時の古書画収集に不可欠であった縮図の方法について議論していることなどを具体的に指摘した。 また、洞斎の展観会への参加者の殆どは、松平定信主導の『集古十集』編纂に関わった人物であったことを指摘し、彼らの関心の在り処や共有された知見は、定信による古器古物収集事業の大きな流れの中に位置づけられると述べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で設定した課題を解決するために、3つの小テーマ(A,『画師姓名冠字類鈔』を手掛りとした考証趣味のネットワークの研究、B、近世後期における共通の関心事項についての研究、C,山東京伝を中心とした考証と戯作との関わりについての研究)を設定している。 今年度は、主にA、Bにあたる研究、つまり『画師姓名冠字類鈔』に収められた情報の重要なソースと思われる、菅原洞斎主催の古書画展観会で閲覧された書画や交わされた議論について具体的に明らかにし、文化年間において、古書画についての考証を牽引していたサロンにおける関心事や、彼らの知識の元となった書物について考察することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き『画師姓名冠字類鈔』に関わる人物や、展観会の実態を明らかにすることを目指しつつ、小テーマCに深く関連する事項として、京伝が古書画についてどのような関心を抱き、考証し、戯作作品に反映させたかについて、具体的に明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
出張時の宿泊日程が予定よりも短くなったため、未使用額が生じた。該当額は次年度の調査出張費および資料複写費に充てる。
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Research Products
(1 results)