2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K12307
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
紅林 健志 国文学研究資料館, 情報事業センター学術資料事業部, 機関研究員 (10817654)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 仮作軍記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、仮作軍記研究のための基礎作業として、中国小説の享受について、日本文学分野における先行研究および、中国文学分野における研究成果を収集して検証を行った。その結果、中国講史小説および、『三国志演義』『水滸伝』は日本の軍記に非常に近いものとして享受されていたことが明らかになった。そのことは「通俗本」と呼ばれる翻訳作品の目録の在り方にあらわれている。『三国志演義』『水滸伝』は章回形式を採用する。各章に「第何回」という序数を付し、対句の章題をもつ。しかし、両書の翻訳本である『通俗三国志』および『通俗忠義水滸伝』は章回形式を採用しない。一回を二章に分割する方法をとる。これは日本の軍記の形式に改編しようとする意識の反映である。このように最初期の中国小説の翻訳は日本の小説形式に改編するかたちで行われてきた。そして日本の小説形式に合わない要素は切り捨てられた。このことは仮作軍記の成立背景を説明する一助となるものである。また小説史の展開についても新たな知見を与えるものでもある。 その他、仮作軍記の翻刻作業について、『大友真鳥実記』の翻刻に着手し、現在順調に進んでいる。翻刻だけではなく、諸本の調査および作品の梗概、典拠となっている作品や文学史的な意義などをまとめた解題についても同様に作成を進めている。諸本調査についてはある程度終了している。これらは仮作軍記の重要性についての認知を深めるためにも必要な作業である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前提となる白話小説の享受の実態について明らかにすることができた。従来、『三国志演義』や『水滸伝』等の個別の享受の研究は行われていたが、そうした個別の研究を総合して、中国小説と日本の軍記との密接な関係を把握することにもある程度成功した。この研究成果を来年度に学会発表しまとめる準備もすでに整っている。翻刻作業や解題の作成といった基礎作業についても順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
いままでは、先行研究がある程度存在する『大友真鳥実記』や『小栗実記』等を中心に行ってきたが、今後は、あまり先行研究においても言及のない『通俗朝比奈高麗軍談』等についても積極的に研究をすすめてゆく予定である。また引き続き、翻刻作業と解題の作成についても並行して行っていく。
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Causes of Carryover |
作品研究に時間を費やしたため、文献調査等を十分に行えなかった。それと関連して、文献調査で使う予定であった物品についても購入する機会がなかったことが主な原因である。 次年度は文献調査も積極的に行っていく予定である。
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