2018 Fiscal Year Research-status Report
1930年代連邦作家計画のガイドブックにおけるアメリカン・ナラティヴの創出
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18K12323
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
峯 真依子 中央学院大学, 現代教養学部, 助教 (90808693)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | WPA / 連邦作家計画(FWP) / アメリカン・ナラティヴ / ニューディール期 / ガイドブック / 「まずアメリカを見よう」キャンペーン / フェデラル・ワン / 米国各州案内 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、連邦作家計画(FWP)が失業中のプロ・アマチュアの作家に書かせた各州と各都市のガイドブックが、いかにアメリカの自己イメージを醸成させながらアメリカの国民性と文化についてのナラティヴを紡ぎ、またそれがいかなるものであったのかを明らかにすることを目的としている。48州のガイドブックの他にアラスカ、プエルトリコ、またワシントンDCなどのいくつかの主要都市のFWPのガイドブックを半年ほどかけて読了した結果、初年度において得られた知見、および現在までに明らかにできたことは、以下の通りである。
1)まず、いずれのガイドブックもガイドブックでありながら自動車旅行以外の情報の多さが顕著であり、各ガイドブックのうち約三分の二の分量を占めるのが州の歴史、地方文学、産業、建築、アート、文化、風習、伝承、地元新聞のゴシップの引用などであった。読者であるアメリカ人に自国を隅々まで紹介することで、当時まだヨーロッパにあった帰属感を完全に切り離し、アメリカを真の故郷(ホーム)にしようとする特異なガイドブックであったことが明らかとなった。またそのことは、ガイドブックの企画の草案が浮上したWPAの前身FERAの資料からも裏付けられた。
2)つぎに、林業、漁業、農業などで日々ハードワークをこなす肉体労働者の描写が比較的多いことに着目した。肉体労働者についての描写には、アメリカのかつての開拓者の姿が重ね合わせられており、恐慌前にもてはやされた中産階級ではなく肉体労働者を「本当のアメリカ人」「魂を持つアメリカ人」として明確に描いていることから、少なくともFWPのガイドブックは、恐慌期にあってヒーローの再定義やアメリカ国民の再定義を行う意図があったことを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた通り、全州と代表的な都市のガイドブックの読み込みのうち、全州のガイドブックの読み込みを完了した。地方都市の補助的なガイドブックについてはまだすべてをフォローできていないが、当初から2年目で完読予定であったので、おおむね順調に進展しているといえる。
また、ガイドブックを通じて創出されたアメリカン・ナラティヴについて、その時点で明らかになったことについて学会発表を行った。日本語による国内研究発表であるが、予定していたことであるので、これも計画どおりに進んだといえる。さらには、当該年度において明らかにしたことを、編集委員の査読を経て、書籍(和文)として出版準備を進めている(現在、第一校)。
研究過程でFWPガイドブックとそれ以前のガイドブックの違いを浮き彫りにする必要が生じたため、それ以前のガイドブックを一通り網羅する過程において、1906年からの国内旅行奨励キャンペーン「まずアメリカを見よう(See America First)」キャンペーンの存在を知り、そのガイドブックのFWPガイドブックへの影響について確認する必要が生じた。これについては研究計画に組み込んでいないことであったが、すでに資料は入手しているので、次年度に追加でフォローする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は「まずアメリカを見よう」キャンペーンのガイドブックの資料の読み込みを追加で進めながら、当初よりの研究計画を進める。まずは、国際・国内学会で研究発表(英語)を行う予定である。同様に計画に沿って英語論文を国内外の学会誌で発表する。投稿を続ける過程で、地方都市の補助的なガイドブックを含むすべてのガイドブックの読み込みを完了する予定である。FWPガイドブックは一冊800ページを越えるものもあり、総じて分量が多いが、今後控えている現地調査を効率的に行うためにも、遅れが出ないよう取り組みたい。
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Causes of Carryover |
当該年度は全州と主要都市のガイドブックの収集と読了を進めたが、その中で出版当初のオリジナルのガイドブックには付録がついていることが判明したため、復刻版ではなく古書を極力手に入れるようにした結果、海外からの取り寄せに時間がかかり、また取り寄せ不可なども生じてしまった。それによる研究の遅れをとりもどすべく、州のガイドに関しては復刻版を入手する方針をとり、一方、研究計画で次年度で資料の読み込みを完了する予定の地方都市のガイドブックについては、時間的猶予があると考え、そのまま古書を手に入れる方向で進めた。その結果、手配中のままの資料がある関係で、次年度使用額が生じる結果となった。
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