2019 Fiscal Year Research-status Report
1930年代連邦作家計画のガイドブックにおけるアメリカン・ナラティヴの創出
Project/Area Number |
18K12323
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
峯 真依子 中央学院大学, 現代教養学部, 助教 (90808693)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | WPA / 連邦作家計画(FWP) / ウォルト・ホイットマン / アメリカン・ナラティヴ / アメリカン・ガイドブック・シリーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ニューディール政策において失業中のホワイトカラーの救済策として行われた連邦作家計画(FWP)が作った全米の州、都市などのガイドブックであるアメリカン・ガイド・シリーズを通じて、いかなるアメリカン・ナラティヴが創出されたのかを明らかにするものである。2年目である2019年度の研究を通じて、明らかにできたことは以下の通りである。
1)まず、FWPが、1920年代の移民排斥の時代へのアンチテーゼであったこと。すなわち、アメリカ国民とは、アングロサクソン系だけではなく、あらゆる多様な人々がアメリカ人であるという、アメリカ人の新たな定義を行うために、新移民、アフリカン・アメリカンなどすべてを包摂するナラティヴを、彼らマイノリティーの生活や移民の歴史を積極的にガイドブックに記述することで、創出させたことを明らかにした。
2)つぎに、FWPが連邦作家計画、つまり、本来、作家たちによる文学プロジェクトであったことに立ち返り、彼らが文学的な想像力でどのような作品を生み出そうとしていたのかを明らかにした。FWPは、その文学的ビジョンの拠り所として、詩人のウォルト・ホイットマンが詩で歌ったアメリカ国民の在り方、すなわちアメリカ国民が多様な人々から成るとするイメージや、オープンロードのイメージを追求していた。そして、ホイットマンのビジョンをガイドブックという形で実現したFWPは、読者が自動車でアメリカ中を運転することを前提とした、現代におけるユニークな、まるでロードナラティヴのようなアメリカの叙事詩を生み出したことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に突如フォローの必要が生じた「まずアメリカを見よう」キャンペーンの一次資料の調査を順調に進めることができ、それに関連する研究書の読み込みも完了した。2年次に予定していた地方都市の補助的なガイドブックの読み込みは、先行研究に取り上げられている重要なものは完了した。ゆえに、順調に進んでいるといえる。
学会発表としては、2019年の研究成果を踏まえ、当初より目標としていた英語での学会発表を2019年度中に終えることができた。これは国内で開催された比較文明学会の英語セッションの枠組みでの発表であったが、すべて原稿も資料も英語で準備し、司会者とも英語で準備し、国際学会での作法のようなものを学べ有益であった。本研究代表者は、2020年度にアメリカ、ボルティモアで行われる予定のAmerican Studies Associationの個人発表の資格をすでに得ているため、大規模な国際学会に向けた準備という意味でも、前進した。
学会誌への発表としては、日本のアメリカ学会の英語ジャーナルの執筆資格を得て、投稿準備を2019年中の成果を踏まえ執筆を重ねた。年度を跨いだが、2020年6月の現時点ですでに、投稿済みである。また、これは予期しなかったことだが、アメリカの研究者らが中心となって進めているFWPに関する初の研究書の企画に、執筆者の一人として参加することが内定している(the University of Massachusetts Press)。FWPという共通の研究テーマで集う国際的な研究のコミュニティに参加できることで、本研究が国際的にも貢献できる可能性が生じた。以上を踏まえ、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2年間は基本的にはガイドブックの全貌を把握することに努めたが、次年度より視点をいくつかのFWPのもっていた独自性、先見性に目を向けていく。
まず、ワシントンD.C.に機関として「黒人問題局」という部署に注目する。著名な黒人作家スターリング・A・ブラウンがそのトップに立ち、ガイドブックに記述される黒人の描写が差別的でないかをチェックする機能を有していたこと、また地方のFWPで黒人作家が差別的待遇を受けていないかなど黒人作家の雇用を確保する機能も有していた点など、当時としてFWPは非常に画期的な人種観の是正に努めたプロジェクトでもった。その側面を中心に、調査を行う。8月に、アメリカ議会図書館と、スターリング・A・ブラウンのFWPでの仕事の資料が保管されているハワード大学での調査を予定している。
その成果を踏まえて、2020年11月に、ボルティモアで行われる予定のAmerican Studies Associationの個人発表の資格をすでに得ているため、そこで発表したいと考える。そこでの研究発表の成果は、英語ジャーナルに掲載されるよう、2020年中に執筆と投稿を進めていく予定である。万が一、渡航できなかった場合に備え、国内では絶対的な限界はあるが、それでも国内で手に入る資料の範囲で研究を進め、渡航が可能となった際に、現地の一次資料を研究に反映していきたいと考える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、英語での学会発表を国内で開催された学会で行ったことで、旅費が大幅に抑えられたことが挙げられる。その使用計画としては、次年度において、アメリカでの国際学会での発表が決定しているため、それに回し有益に用いたい。
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