2020 Fiscal Year Research-status Report
1930年代連邦作家計画のガイドブックにおけるアメリカン・ナラティヴの創出
Project/Area Number |
18K12323
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
峯 真依子 中央学院大学, 現代教養学部, 講師 (90808693)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | WPA / 連邦作家計画(FWP) / ウォルト・ホイットマン / アメリカン・ナラティヴ / アメリカン・ガイドブック・シリーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度も継続して、ニューディール政策において失業中のホワイトカラーの失業対策として行われた連邦作家計画(FWP)が作った全米の州・都市などのガイドブック、アメリカン・ガイドシリーズを通じて、いかなるアメリカン・ナラティヴが創出されたのかを研究した。 本年度の研究結果として特筆すべきことは、統一された国家的歴史やアメリカ文化があることを国民に示し、かつ国民がアメリカ人であることの自覚を促すビジョンのもと、FWPが「ロード」「車」「移動性」といったコンセプトを用いて国民統合のためのナラティヴとしてガイドシリーズを創作したことである。FWP作家たちが書いたアメリカの旅は、単なる国内ツーリズムでは片づけられない。アメリカ人による自己と自国の発見が促されたのであり、しかもそれは車でロードを移動することではじめて実現されると考えられた。FWPにとって国民をアメリカ人化するのはロードの旅であったことから、近代国家の成立と不可分である国民創生の物語が、アメリカではガイドブックという、いわばロードナラティヴの形をとったことが判明した。 次に特筆すべきことは、ロードが国民統合のナラティヴに用いられた必然性として、歴史的な因果関係の可視化を避け、あくまでも地理的な語りによってナラティヴを進めることのできるという点である。作家へのガイドライン『アメリカン・ガイド・マニュアル』は、あくまでも道に沿って次々と話題を展開させながら書くことを求め、一つの歴史的問題に立ち止まることのないよう方針を出した。また実際の各州のガイドブックの散文からも確認できるように、歴史的な様々な対立がロードという地理的な語りによって不可視化されたことが明らかになった。一方で、人々をつなぐたった一つのものは、多様な歴史と文化と人々の統合を可能にするという点でもまたロードという地理的な語りであったことが本年度の研究で判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和2年度は、8月に予定していたハワード大学とアメリカ国会図書館での資料調査ができなくなった。調査が実施できなかった理由は、世界的なパンデミックにより、アメリカへの入国が急遽、実質的に不可能となったからである。この遅れは、令和3年度の調査において補うつもりである。 また、国際学会発表としては、当初より公表を予定していたAmerican Studies Associationの開催そのものがキャンセルとなり、参加することができなかった。理由は、上記と同様である。この遅れは、令和3年度の同学会での発表で補うつもりである。 一方、FWPとホイットマンの関係について、日本ホイットマン協会第58回大会(on Zoom)において、英語で10月に発表し、ホイットマン研究者らからの意見を有益な得ることができた。
論文に関しては、投稿先からリジェクトされた英語論文について、1本、現在再執筆を進めている。また、10月にホイットマン協会で英語で公表した内容を推敲しながら、英語論文の執筆を1本進めているため、計2本進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、上記にあるように、1)令和2年度に実施できなかったハワード大学とアメリカ議会図書館での文献調査と、2)本研究の成果をAmerican Studies Associationにおいて英語で公表すること、3)英語での論文執筆と公表を進める。それによって、研究の遅れを回復し、当初の研究計画通りの実施を目指す。
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Causes of Carryover |
令和2年度は、世界的なパンデミックにより、当初計画していたハワード大学とアメリカ議会図書館での文献調査ができなかった。当初の計画では、令和3年度はワシントンD.C.での調査は予定していなかったが、本年度その調査を行う。
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