2021 Fiscal Year Research-status Report
1930年代連邦作家計画のガイドブックにおけるアメリカン・ナラティヴの創出
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18K12323
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Research Institution | Chuogakuin University |
Principal Investigator |
峯 真依子 中央学院大学, 現代教養学部, 講師 (90808693)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 連邦作家計画 / See America First / Picturesque America / Sterling A. Brown / Negro Affairs / Nomadland |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、個人発表の権利を得ながらもパンデミックにより延期になっていたThe American Studies Associationが10月にオンライン開催されたため、まず前半はそこでの発表に焦点を絞った。後半は、自然という観光名所と連邦作家計画のガイドブックに関する著書(共著、日本語)の執筆を行った。科研による研究実績の主な概要は、以下のとおりである。
・口頭発表(2021年度年次大会The American Studies Association)連邦作家計画が人種差別の是正のためにワシントンD.C.に設置した「黒人問題局(Negro Affairs)」のトップであり、ハワード大学教授スターリング・A・ブラウンが、全国のガイドブックの編集の際、とくに南部の連邦作家たちといかに草稿を巡り対立したかを、“Sterling A. Brown's Editorial Revolts at the Federal Writers' Project” というタイトルで研究を進め、発表した。ガイドブックは国の出版物であり(商業的には出版社が請け負ったが、執筆そのものは国家プロジェクであるという意味で)、黒人についての描写一つ一つが、アメリカの公的な人種観を決定する重要な意味を持っていたこと、ブラウンがどのような描写の削除や訂正を連邦作家たちに求めたのかを具にみていくことで、連邦作家計画の果たした黒人マイノリティへの功績を明らかにした。
・共著執筆、『自然・風土・環境の英米文学』(金星堂、近日出版予定)「愛国的イデオロギーとしての自然―映画『ノマドランド』についての一考察」というタイトルで、連邦作家計画のガイドブックがもつ愛国的なレトリック、また国民統合を目的としたガイドブック本来の目的を資料によって明らかにしつつ、映画『ノマドランド』の自然描写の意味を解き明かした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究発表と共著の執筆(日本語)の2点は達成したが、アメリカでの一次資料を確認できない中での研究には限りがあったと言わざるを得ない。1930年代の連邦作家計画の資料の中でも、作家らとワシントンD.C.のスターリング・A・ブラウンなど編集のトップらとのメモのやり取りの資料はデジタル化されておらず、他にも必要な資料を完全な状態で確認することができなかった。その点については、2022年度中に渡米し遅れを取り戻すつもりである。
また、昨年度まで書いてきた英語の論文(2本)を、書き直し・書き足しをしてしかるべき雑誌に再投稿・発表する予定であったが、そちらも進んでいない。しかし、次年度2022年は英語による研究発表を6月という早い時期に設定している(イギリスのリバプール大学とグリニッジ大学の共同開催による「ネオ・スレイヴ・ナラティヴ会議」で、連邦作家計画と黒人文学の関係について研究発表を行う)。したがってそれ以降は、アメリカでの資料収集と英語論文の修正と発表に十分な時間を充てる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、国内外で研究発表(英語)を行う予定であった。その点は十分に達成している。しかし、国内外の学会誌で英語論文を発表するという当初の計画については、達成できていない。そこで、2022年度のアメリカでの資料収集の成果を踏まえて、その点について、今ある2本の英語論文の原稿の書き直しを順次、以下の方針で行っていきたい。
一つは、ニューディール期の政府は、連邦作家計画のガイドブックを通じて「アメリカの叙事詩」なるものを作り出そうとしたこと、また官僚たちのそのアイデアが、ウォルト・ホイットマンにあったことを、議会図書館の資料を読み込んで英語論文として2022年中には発表の目途をつける。
2つ目は、連邦作家計画の黒人問題局のスターリング・A・ブラウンの仕事を、2022年度行う予定のアメリカでの資料収集の成果を盛り込んでリライトし、2022年度末(2023年3月)までには、論文発表の目途をつける。ブラウンに関する資料は、ワシントンD.C.のハワード大学に保管されていたのが、2019年にマサチューセッツ州のWilliams Collegeに移管されたことがわかっている。よって、2022年に、ウィリアム大学においても資料調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画にあった、計2回の海外リサーチを一度も行うことができなかったため。
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